研究課題/領域番号 |
26870427
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研究機関 | 別府大学 |
研究代表者 |
針塚 瑞樹 別府大学, 文学部, 講師 (70628271)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 若者 / 児童養護施設 / 同居 / 共同性 / 家族 / 親族 / 日常 / 非日常 |
研究実績の概要 |
本研究は、インドの児童養護施設出身の若者が共同的な関係をもつ複数の集団の特徴と、若者が共同的関係性を深化・拡張するうえで、これらの複数の集団が相互に補いあって果たす役割について明らかにすることを目的としている。
本年度は、インドの児童養護施設出身者の若者たちが共同的な関係をもつ複数の集団の特徴のうち同居しゅうする集団の特徴について、以下の点を明らかにすることができた。
若者たちが共同的な関係をもつ主要な集団の一つは、児童養護施設出身者を中心とした同居をする集団である。調査対象である児童養護施設Aの出身者は18歳前後で施設を出て自立する際に、同じA出身者数名でデリーに部屋を借りて生活を始めていることが多かった。同居することで、仕事を含めた生活のさまざまな局面でお互いに助け合っており、都市での生活で家族・親族ネットワークからの支援を得ることが難しい児童養護施設出身者にとって同居する集団は、彼らがキャリア・家族形成における選択・決定の場面に相談し、支援を受ける共同的な関係を有する集団となっていた。ただし、インドの都市社会においては、若者が複数名で同居することは多く児童養護施設出身者に限ったことではない。この点については、工学系私立大学を卒業し公務員になることを目指して勉強を続ける若者の同居・近居集団との比較した場合に、異なる特徴がみられた。これらの若者は、勉強をするという彼らの日常生活において助け合いや共同生活を行っているが、宗教的祭事や休暇のための遠出など非日常においては、故郷に家族やデリーの親族と一緒に過ごしていた。児童養護施設出身者は、日常も非日常もこの同居集団と過ごしていること場合が多く、同居集団の共同的関係性は深いものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究で明らかにすべき課題は以下の4点であり、そのそれぞれに関する進捗状況は以下のようになっている。 ①若者のあるいは若者が関与する他者のキャリア形成と家族形成における共同的関係性の構築過程 児童養護施設出身者の若者たちのキャリア形成については、若者たちが比較的同種あるいは類似した職業の者同士で同居している例など、同居することがキャリア形成に影響を与え、またそのことが共同的関係性の深化につながっているような例がみられた。つまり、かれらの職業生活と私生活が分かちがたく結びついているような状況があると考えられる。職業生活と私生活の分かちがたさについて、更なる調査が必要である。 ②児童養護施設出身の若者と私立大学を卒業した若者の社会関係の比較 児童養護施設出身者と私立大学を卒業し公務員職を目指す若者では、その同居・近居の集団は宗教的祭事など非日常を共有するか否かという点で違いがみられた。児童養護施設出身者は結果として、家族・親族的な共同的な関係性を、非日常の共有体験により同居集団内、あるいは集団同士で深化させている可能性がある。 ③児童養護施設出身者の共同的な関係性構築においてNGOの施設が果たす役割 児童養護施設出身者は、施設から自立して間もないころは施設や施設職員に頼ることが多かったが、だんだんと施設とは疎遠になっており、特定の職員との関係性を継続していてる場合、施設出身者同士で関係を持っている場合はあるが、施設に対する所属意識は変化していることが考えらえる。 ④共同的関係性の構築における複数の準拠集団の相互補完的な機能 同居する施設出身者の集団、仕事を通じて知り合った人との集団、故郷の家族・親族の集団、これらそれぞれと若者の関係性、集団同士の関係については今後更なる調査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度デリーにて現地調査を行う予定である。まず、若者の若者が仕事を通じて築いた関係性について詳しく調査を行う予定である。若者が仕事を通じて築いた関係性は、恋愛関係になった相手、結婚した相手、一緒に起業をした相手、など公私にわたっている。また、これらの相手の関係性が、さらなる共同的な関係性を生み出している可能性にも注目する。 また、NGOとの関係性について、NGO出身者同士の関係、NGO職員との関係、NGO自体との関係について詳しく調査を行う。インドにおける今日の家族関係が「相互依存的な核家族」(Pandey2016)と称される。インドの都市部で多い家族形態は核家族であるが、さまざまな相互扶助の関係を緊密に維持しているため、機能としては拡大家族と同じであると指摘されている。児童養護施設出身者たちの多くは、結婚に関する儀礼にはNGO職員や出身者を招待している。故郷に家族がいる、あるいは家族がもたずデリーという都市社会で生活する児童養護施設出身の若者たちは、家族同士が緊密に相互扶助を提供しあうなかで、NGO出身者同士の関係性を親族関係の代替としているのではないかと考えられる。また、調査対象者のうち故郷に家族がいる者は、家族に家を建てる、土地を買うなど、都市で働く若者たちが故郷の家族に経済的な支援をすることで、故郷においてネットワークを強化させている可能性も考えられる。若者たちと、これらの集団との関係性についてさらに調査を行い、若者や若者集団にとってそれぞれの集団が果たす役割、また、こうした準拠集団の複数性が若者たちの共同的な関係性構築に与えている影響について検討をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初年度末に予定したデリーでの現地調査を、研究分担者となっている科学研究費「インドの非エリート高等教育機関に関する研究」(基盤C)の現地調査と兼ねて行った。その調査の際に十分にデータ収集を行うことができなかった分の調査を、次年度に行うことにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に3週間ほどのデリーでの現地調査を行う予定であり、その旅費として40万円ほどを使用する予定である。また、現地調査の際に購入する文献資料代金として3万円ほどを使用する予定である。
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