1990年代からインド政府はNGOなど市民社会と連携して、すべての子どもに対する教育と福祉の保障に取り組んでいる。その結果、労働や路上生活を経験したストリートチルドレンと呼ばれる子どものたちのなかで、NGOの児童養護施設で生活をした経験をもつ若者は少なくない。本研究はインドの児童養護施設出身の若者が有する複数の準拠集団の特徴と、若者が共同的関係性を深化・拡張するうえでの複数の準拠集団がもつ相互補完的役割を明らかにすることを目的とする。年少の子どもの頃に家族という共同体を離れ、児童養護施設という共同体に接触した若者のキャリア形成と家族形成の場面における選択・決定に関してインタビューを行い、若者にとっての共同体的存在の成立条件とその性格の検討を目的とする。 まず、若者たちにとっての重要な準拠集団となっている存在として児童養護施設とその出身者で築く共同体がある。児童養護施設から自立する際に、ほとんどの若者たちは、児童養護施設出身者同士で近居・同居をしている。また、仕事にも児童養護施設、あるいは施設の関係者、施設を通して知り合った人、施設出身者を通して就いている。その結果、仕事の場面でも、プライベートの場面でも施設の職員、施設出身者にさまざまな相談をしていることが多かった。また、結婚の際にも、故郷にいる家族の代わりに施設職員や施設出身者が家族・親族の代替的役割を果たしている場合が多い。多くの若者たちは施設で得た学歴や職業訓練、芸術関係の経験などと社会関係を基に生活の基盤を築いていた。さらに、故郷の家族との関係性を再構築し、結婚し家族を形成していた。若者の施設に対する気持ちはさまざまであり、必ずしも肯定的なものではなかったが、それでも就職の斡旋、家族関係の問題などインド社会のなかで、家族や親族に相談するような場面では、施設の職員や施設出身者の支援に頼ることが少なくなかった。
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