研究課題/領域番号 |
26870438
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
稲嶺 達夫 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 助教 (00549628)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子多型 / 胆汁酸 / ウルソデオキシコール酸 / 原発性胆汁性肝硬変 |
研究実績の概要 |
原発性胆汁性肝硬変(PBC)患者の一部は,治療薬ウルソデオキシコール酸(UDCA)に反応しない。このUDCA不応例に対してbezafibrateの追加投与が有効とされているが,その詳細な作用機序は明らかではない。我々は,胆汁酸合成の律速酵素CYP7A1およびその転写因子PGC-1α・HNF4αの遺伝子多型(SNP)がPBCの肝硬変進行と相関すること,CYP7A1プロモーターSNP rs3808607の肝硬変進行リスクアレルがCYP7A1の転写を増加させることを既に示している。今回,UDCA不応およびbezafibrate反応の機序を解明するために,rs3808607がCYP7A1転写に影響する機序の解明を試みた。 CYP7A1プロモーターを組み込んだレポーター遺伝子アッセイにより,胆汁酸代謝に関わる核内受容体 (FXR,PXR,CAR,PPARα,RAR, GR) のリガンドに対する反応性を肝硬変進行のリスク・非リスクアレル間で比較した。両アレル間で各リガンドに対する反応性に差は見られなかった。rs3808607の関わる転写制御は核内受容体を介したものではないことが示唆された。さらに,CYP7A1が高発現していると考えられる遺伝子型を持つ患者において,UDCAに対する治療反応性が異なるかどうかを検証した。UDCAを服用しているPBC患者115名を対象に,UDCA治療効果との相関解析を行ったが,肝硬変進行と相関したCYP7A1,PGC-1α,HNF4αのSNPsはいずれもUDCA反応性とは相関を示さなかった。このことから,これらのSNPsの肝硬変進行への寄与はUDCA反応性を介さないことが示唆された。 さらに,SNP rs3808607の遺伝子型が実際にCYP7A1の酵素活性に差を与えるかどうかを明らかにするため,50名の健康成人から血液検体を採取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CYP7A1およびPGC-1αのPBC肝硬変進行と相関を示したSNPsがCYP7A1の転写に影響を与える機序を平成26年度中に明らかにする予定であった。CYP7A1のrs3808607についてはほぼ計画通りに進行したが,当初候補としていたbezafibrateや他の核内受容体(FXR,PXR,CAR,PPARα,RAR, GR)アゴニストは同機序に関わっていないことが示されたため,機序解明のため候補転写因子のさらなる拡大が必要となった。一方,PGC-1αのミスセンスSNPに関しては計画が遅れている。発現プラスミドの効率が安定しなかったため評価系の再構築に時間を要しているのが原因である。この点は反省点である。 また,UDCAに対する反応性が先の肝硬変関連遺伝子の遺伝子型間で異なるかどうかを検証するため,先の相関研究とは異なるPBC患者200名を対象に2年間の治療効果を用いた相関解析を行う計画であった。研究開始に先行して患者検体収集を進めていたため299名分を既に収集し,相関解析も完了した。今回,2年間の治療評価期間内にUDCAに加えてbezafibrateや他の薬剤を服用している患者が多かった。より厳密な治療効果の評価を得るために対象をUDCA単独服用患者に限定したため,対象患者数は115名と大きく減少した。今回経験した臨床現場から一様な患者検体を収集することの難しさは今後の研究立案の注意点としたい。 肝臓におけるCYP7A1の実際の発現量および酵素活性を遺伝子型間で比較するために30名のPBC患者血清中の7-alpha-hydroxycholest-4-en-3-one を測定する計画であったが実行できなかった。PBC患者の血清試料が限られているため,事前に50名の健康成人血清を用いて解析を行うこととし,新たな検体収集に時間を要したことが原因である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) PGC-1αのミスセンスSNPがCYP7A1転写に影響する機序を明らかにする。また,CYP7A1 rs3808607についても,遺伝子ノックダウン実験などを用いて他の転写因子の関わりを明らかにする。 (2) CYP7A1,PGC-1α,HNF4αのSNPsはUDCA治療反応性と相関を示さなかったため,今後はこれら遺伝子以外の胆汁酸代謝関連遺伝子とUDCA治療反応性との相関解析を行い,UDCA抵抗性に関わる分子を明らかにする。 (3) 健康成人50名の血清を用いて,肝臓におけるCYP7A1酵素活性を遺伝子型間で比較する。活性に差が見られた場合,研究計画通りにPBCの患者血清を用いた解析を行う。 (4) 平成27年度以降は,CYP7A1の過剰発現マウスを用いて,UDCA治療効果やbezafibrate併用への胆汁酸代謝変化の影響をin vivoにおいて検討する予定であったが,相関解析においてCYP7A1,PGC-1α,HNF4αのSNPsはUDCA治療反応性と相関を示さなかったため,同目的の達成には他の遺伝子改変マウスの利用も考慮する必要があると考えられる。他の胆汁酸代謝関連遺伝子とUDCA治療反応性との関連が明らかになり次第,CYP7A1過剰発現マウスおよび他の遺伝子改変マウスのどちらがより適切か再検討し,より目的にあったマウスを用いて,胆汁酸代謝変化のUDCAおよびbezafibreate治療効果への関わりを明らかにする。
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