前年度までに、ヒト培養細胞のセントロメア領域から産出されるノンコーディングRNA (ncRNA)について、このRNAと複合体(RNP)を形成する因子として同定した数種のタンパク質のうち、RBMXが分裂期特異的にRNAに結合すること、RBMXのノックダウンが、セントロメアRNAのノックダウンと同様に、染色体分離の異常と、姉妹染色分体の異常分離を生じたことから、セントロメアncRNPが姉妹染色分体の制御を通じて染色体分離過程に作用する可能性を見出した。 本年度は、セントロメアncRNPが細胞周期の進行に伴い構成を変え、異なるステップにおいて、それぞれ機能する可能性を示す結果を得た。具体的にはncRNPの構成因子として同定していたIMP-3およびIQGAP1について、抗体染色実験により、これらの因子が、染色体分離後に細胞質の分離に関わることが知られているセントラルスピンドル並びにミッドボディーと呼ばれる構造体にそれぞれ局在することを明らかとした。in situ hybridization実験の結果、セントロメアncRNAもまたこの構造体に局在するデータが得られたことから、IMP-3およびIQGAP1がセントロメアncRNAと共にRNPとしてこの構造体に局在する可能性を考えた。セントロメアncRNAのノックダウンは、これまで主に解析してきた葡萄房様小核と呼ばれる染色体分離の異常が原因と見られる表現型の他に、巨大核をもつ細胞を出現させていた。一方IMP-3およびIQGAP1のノックダウン細胞は、染色体分離の異常を示さない代わりに、巨大核あるいは歪な形の核を形成した。同じセントロメア由来のncRNAとRNPを形成する因子でも、前年度に主に解析したRBMXが染色体分離の過程で作用するのに対し、IMP-3並びにIQGAP1は、その後の細胞質分離という別の過程に機能する可能性を考えている。
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