平成28年度には、森大輔・高橋脩一・池田康弘(2017)「不法行為における損害賠償の目的に関する実証的研究―アンケート調査の統計分析」熊本法学139号を公刊することができた。この論文では、日本の損害賠償制度の目的について、損害填補と抑止・制裁が主に挙げられるが一般人はそれについてどのような意識を持っているか、インターネットを利用したアンケート調査の結果を分析したものである。分析において、質問間に必要条件関係がある場合があり、その関係の存否について質的比較分析(QCA)を用いて確かめることを行った。これまでQCAは、一般に小~中程度の数の事例の分析に最も適したものであるといわれ、アンケート調査のような大量のデータの分析にはあまり使用されてこなかった経緯がある。しかし、QCAは、集合論的な関係を分析する場合には通常の統計分析以上に適したものになる可能性があり、本研究の分析でその一例を示すことができたのではないかと思われる。 期間全体を通して、法学におけるQCAの利用についてある程度論じることができた。まず、国際司法裁判所(ICJ)の判決の遵守に関してQCAでの分析を行った。また、QCAが,法学の判例研究と親和性が高いことを示し、その具体例として、米国の弁護人の援助を受ける権利についての1960年代までの裁判例の分析を行った.さらに、QCAにも関連する、社会科学におけるデータを用いた因果分析のあり方に関する最近の議論について検討した。
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