本研究の目的は、85Kr法による湧水年齢の解明手法を提示し、一連の分析システムを実用化することである。昨年度までの研究期間内に既存の分析システムを改良し、現地調査時間の半減を実現した。また、熊本地域や都城盆地において現地適用を実施し、85Kr法の有効性を示すことができた。最終年度には、地下水中の硝酸性窒素濃度(NO3)の高い熊本地域北部を対象として、85Kr法の現地適用を実施した。熊本地域では、硝酸性窒素削減計画が策定された2005年以降も各地でNO3濃度は上昇し続けており、対策の明確な効果がみられていないのが実情である。85Kr法を適用し精緻な地下水年代を明らかにするとともに、本地域における地下水中NO3の動態の考察を目的として実施した。 測定対象としたのは浅井戸1地点、深井戸2地点である。浅井戸では最近の地下水であることが推定された。しかし、窒素削減計画後もNO3濃度は減少せず、上昇し続けている。これは、削減計画後の現在も涵養域地表部からの窒素負荷が続いているためであると推察される。深井戸Aでは、平均滞留時間が約17.5年と推定された。NO3の長期変化からは、濃度の上昇傾向が2013年以降、横ばい・減少に転じていることが確認されたが、現段階で削減計画の効果について断言することは難しい。深井戸Bでは、約25年と長い滞留時間が推定されたため、大きな帯水層貯留量を有した流動機構であることが予想される。他の2地点で確認されたNO3濃度の季節変化は認められないことから、本地点の地下水は涵養後に十分に混合した状態で流動していることが推察される。負荷された硝酸性窒素の影響は長い年月をかけて地下水に反映するため、削減計画の効果はまだ現れていないものと思われる。 このように、NO3濃度の挙動や将来予測を、地下水の滞留時間を絡めて議論することで、効果的な地下水管理・保全に資する成果となった。
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