本研究は人間が物体表面に触れた際に生じる「ざらざら」「つるつる」といった触覚テクスチャの遠隔計測法の確立を目指している。触覚情報はバーチャルリアリティや遠隔コミュニケーションの場で視聴覚情報では伝わりにくい手触りや情動の伝達に極めて重要な要因であると考えられ、その記録・伝送・再生の研究は重要な研究課題である。
触覚テクスチャ知覚に関連する物理量は複数あるがその中でもテクスチャ知覚に主要な影響を与えると予想される物体表面の微細な凹凸形状、すなわち表面粗さを測定対象として研究を進めている。ヒトがテクスチャとして感じる表面粗さはナノメートルからミリメートルオーダーの形状までを含むが、ミリメートルオーダーの凹凸形状を表面の光学的性質によらず測定するために超音波の反射・干渉を利用した手法を提案している。
最終年度までの成果は以下のとおりである。第一に超音波の反射・干渉についての物理現象をモデル化し測定対象の表面形状により生じる音圧パターンのシミュレーションを可能にした。第二に構築したモデルの有効性を検証する測定系を構築し、異なる表面パターンを持つ複数評価対象について超音波を照射した際に形成される音圧パターンの取得に成功した。また取得した音圧パターンがシミュレーションにより得られたパターンと一致することを確認しモデルの有効性を確認した。第三に超音波の反射・干渉により生じる音圧パターンから表面形状を推定する逆問題の解法を検討し、シミュレーションにおいて有効性を検証した。また実測データについても基礎的な結果を得た。
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