本研究は、琉球列島に生息するクビワオオコウモリの生息密度が島ごとに異なっていることを利用し、それぞれの島でオオコウモリと共生関係(種子散布や送粉)にある植物の関係性が地理的にあるいは密度依存的にどのように変化しているのかを明らかにすることを目的にしている。これらは、1)健全な生態系を維持していくための適正な生息密度の把握や、2)機能的絶滅の観点から希少種の個体数回復の目標値をどのように設定すべきか、といった保全学上の予測を可能にする。 本研究では具体的には、1)琉球列島のオオコウモリの分布・密度を島レベルで推定する、2)琉球列島の植物の分布・密度を島レベルで推定する、3)送粉者や種子散布者の機能が失われる生息密度(機能的絶滅が生じる閾値)の算出、を計画した。今年度は20島で野外調査を実施し、現在までに、九州2ヶ所、トカラ列島3島、奄美諸島5島、沖縄諸島32島、宮古諸島8島、八重山諸島7島、大東諸島2島の計58島においてオオコウモリの生息状況と植生に関するデータを得た。これは当初計画していた訪島数のほぼ100%であるが、悪天候によって再調査の必要性が生じた島や周辺の調査結果を踏まえた上で新たに追加調査が必要になった島があるため、現在8島が未調査の段階にある。科学研究費助成事業の補助は平成29年3月末をもって終了したが、より精度の高い解析には調査対象地域である琉球列島全域での分布の重ね合わせが必須であり、これらの島への訪島も含めて引き続き調査を実施したい。 現在までの調査の結果、クビワオオコウモリの分布範囲が年代により大きく変動してきた可能性が示唆された。残りの島に関するデータの収集後に詳細な解析を進めることで、機能的絶滅が生じる閾値の算出を行うとともに、オオコウモリと個々の植物との関係性の時間的変化やその進化的要因を明らかにしたい。
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