研究課題
光合成効率の高い微細藻類は、植物に替わる新たなバイオマス資源として注目されている。その中でも、すでに産業利用され大量培養系が確立しているシアノバクテリアArthrospira platensis(スピルリナ)は、実用化に最も近い微細藻類の1つである。しかし、自然界に存在するスピルリナでは、バイオ燃料の原料として利用できるだけの生産性が得られていない。そこで、本研究では、スピルリナの遺伝子操作技術を確立し、スピルリナの遺伝子工学、代謝工学を行う。これまでの研究で開発したシアノバクテリアの糖代謝制御技術をスピルリナに応用し、醗酵原料となるデンプンの生産性を向上させたスピルリナを作り出すことを目指す。スピルリナの形質転換において最も問題となるのは、外部から導入したDNAを切断する制限修飾系の存在である。スピルリナは11個のII型制限酵素を持っており、DNAを導入するためにはまずこれらの制限酵素による切断からDNAを保護する必要がある。これまでに、大腸菌に11個のメチル化酵素遺伝子をクローニングし、その認識配列を明らかにした。これらの結果をもとに、全II型制限酵素認識配列を除去したプラスミドを作製し、スピルリナ細胞内でのII型制限酵素による分解からDNAを保護することが可能となった。スピルリナにはII型だけでなく、I型制限酵素も多数存在する。エレクトロポレーション法によりI型制限酵素特異的阻害剤をDNAと共に導入することで、I型制限酵素による分解からもDNAを保護することが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究成果により、スピルリナの形質転換の最大の障壁となると考えられた制限酵素による分解からDNAを保護する方法を確立することに成功した。今回確立した方法を用いて、エレクトロポレーション法によりスピルリナにDNAを導入し、形質転換体の作製を進める。形質転換体の選抜には、寒天培地上でコロニーを形成させる必要がある。スピルリナの寒天培地上でのコロニー形成効率は低かったが、培地成分を見直すことでコロニー形成効率を向上させる目途も立っている。
エレクトロポレーション法の条件検討を行い、スピルリナの形質転換に最適な条件を決定する。
昨年度、これまで行ってきた形質転換による遺伝子操作とは全く異なる方法で、スピルリナの遺伝子機能を阻害する方法を見出した。その方法の検証には更なる時間を必要としたため、次年度に予算を繰り越した。
上述した新たな方法の可能性を検証する。遺伝子発現への影響等を解析するための試薬などを購入する。
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Nucleic Acids Res.
巻: 45 ページ: D551-D554
10.1093/nar/gkw1131