本研究では、事象関連電位を指標とし、半視野瞬間提示法を用いた意味プライミング課題を使用することで、左右大脳半球におけるカテゴリー特異的な語彙‐意味処理過程の有無を検討することを目的とした。 日本語を母語とする大学生・大学院生(合計14名)を解析対象とした。動物カテゴリーと人工物カテゴリーに属する名詞を用いて、意味的類似性の異なる単語対の類似性判断を行っている際の脳波を計測した。ターゲット提示後、150-200 ms、200-300 ms、300-450 ms、450-650 msを解析対象潜時とし、高類似性語と低類似性語の単語処理から得られる事象関連電位を解析した。 150-200 ms区間では、左視野提示条件における動物カテゴリーの処理においてのみ、高類似性語と低類似性語に波形の振幅差がみられた。200-300 ms区間では、動物カテゴリーでのみ類似性の違いによる振幅差を示した。300-450 ms区間では、類似性の効果でのみ振幅差がみられ、450-650 ms区間では、両カテゴリーにおいて類似性の違いによる振幅差がみられた。 近年、意味素性の処理が150 ms前後から行われていることが報告されているが、早期の意味処理に半球間におけるカテゴリー特異的な処理が存在する可能性を示したことは、本研究による新たな発見といえる。右半球における早期の意味素性処理がN400成分の開始潜時と考えられる200-300 ms区間でみられた動物カテゴリーの処理の速さにつながったものと考えられる。300-400 ms以降は、意味素性の処理においては、カテゴリーに依存しない処理が行われている可能性が示唆された。今後は言語発達過程における意味処理の左右大脳半球機能の役割の解明や言語リハビリテーションへの応用へ向けた発展的研究へとつなげる。
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