平成28年度は、前年度までの研究を前提にし、不平等や貧困問題の基礎的研究を進めながら、それらと公共政策を明らかにしていった。不平等や貧困は、従来の所得という一元的な視角によって評価されるべきものではない。たとえば、教育や健康といったさまざまな要因を考慮に入れる必要がある。しかし、多次元的評価を考えるためには、ひとびとの互いに異なる選好を前提として集計しなければならない。本研究では、選好集計の問題から基礎づけるかたちで分析を進めた。 「福祉」という観点から広く考えれば、不平等や貧困は時間を通じた問題でもある。近年、不平等や貧困の深刻化への懸念が広がっているが、多角的視野と時間的視野を取り入れた社会的評価が重要となる。幅広い情報を取り入れた選好の集計(そして不平等・貧困指標の構築)には、一定の困難性が存在することが分かったが、同時に、規範的条件を適切に弱めることで建設的な評価、指標の構築が可能であることも分かった。ひとびとの合理性は、自由や福祉のために本質的に重要であり、衡平性の基礎ともなりえることが分かった。 公共政策にはさまざまな手段が考えられるが、不平等・貧困の背後にある問題を考えるうえでは、税制・産業政策といったものは基本となるものである。国際間の資本移動は資本蓄積を考えるうえで重要な役割を持つと言えるが、関税などの役割も考える必要がある。こうした点は、ピグーの『厚生経済学』以来の重要な課題であり、歴史的文脈においても意義を持つが、本研究では厚生経済学史的な文脈と今日的な文脈の両者において、公共政策の意味を検討した。 研究成果として、研究論文、エッセイ、書評などを、学会誌・国際的研究雑誌・紀要に出版した。研究モノグラフも出版するとともに、国際学会で研究報告を行った。
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