高齢者が生活する環境では、慣れない場を歩行する時の転倒予防ケアを提供することが課題とされる。高齢者が利用する施設内においても、移動する際の視覚から情報入力される内容を把握し、来所時から環境調整が必要な箇所を検討することが求められる。本研究は、高齢者がはじめて訪れる施設内を移動した時の視覚情報を捉え、環境調整看護ケアの観点から、事故の要因を分析・検討するとともに、安全対策の指針を見いだすことを目的とする。 本研究では、対象者がはじめて訪れた施設の居室フロア間、およびエレベーターを利用した他のフロア間への移動の際の歩行時の視線の動きや、見つめる場所について視線計測を行い、その後、移動中に印象に残った箇所等についてインタビュー調査を行った。 対象者は、自宅で生活している、これまで調査施設に来所した経験がなく、視覚・聴力機能に異常がない、自力で歩行が可能な者(平均年齢70代)とした。 視線測定では、歩行中に視線が停留した箇所で多かったのは廊下の床面であった。廊下の角を曲がった直後であっても、前方に視線を向ける者は少なかった。エレベーター移動では、搭乗する際に視線が下方にあった者は、扉が開いた直後にも視線が上昇する者が少ない傾向がみられた。インタビュー結果では、フロア内の一部のトイレを把握しているとの回答が多かったが、トイレの場所を把握していない者の中には、移動中にはトイレに行きたくなかったから確認しなかったとの回答もみられた。 結果より、廊下や居室の出入り口には物を配置しないこと、曲がり角や扉の開閉時に職員は慌てず慎重に移動することが必要であることを再確認した。さらに、高齢者の生活する場は、使用頻度の高い所から説明を始め、使用したい時に困惑せぬよう来所時から印象づける必要が示唆された。
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