本研究では、高輝度短パルス放射光を利用した電場下の原子ダイナミクスの精密計測技術を開発し、それを用いて実用的な圧電・強誘電体材料および新規機能性材料の電場誘起原子ダイナミクスを解明する。 27年度は、主にリラクサー強誘電体の分極反転の構造ダイナミクス計測に取り組んだ。リラクサー強誘電体は、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3に代表される複合ペロブスカイト型化合物であり、その巨大な誘電率と巨大な圧電定数から、コンデンサー、振動子、アクチュエータなどの実用材料として広く産業応用されている。リラクサー強誘電体の優れた圧電性能は、常誘電の立方晶結晶中に発生した微小な分極ナノ領域に起源があるとされるが、微視的な誘電・圧電応答メカニズムについて完全な理解には至っていない。リラクサー強誘電体の交流電場下のドメイン配向や格子歪み、原子変位のダイナミクスを明らかにすることを目指して、短パルス放射光を用いた交流電場下の時分割X線回折実験を行なった。試料にはPb(Zn1/3Nb2/3)O3-4.5%PbTiO3 (PZN-4.5PT) 単結晶を用いた。厚さ0.05 mmの単結晶試料に3 kHzの交流電場を主軸 (c軸) に沿って印加すると共に、それと同期した短パルスX線を試料に照射し、X線回折パターンの時間変化を測定した。 測定の結果、交流電場下の格子歪みの時間変化を追跡することに成功した。印加電場の大きさにほぼ比例する格子定数の時間変化が観測されたが、印加電場が抗電場を超えると分極反転に伴い格子定数は逆方向に連続的に変化し、およそ20μ秒程度で分極反転が完了する格子ダイナミクスが観測された。測定したX線回折データから今後結晶構造解析を進めることで、分極反転過程の原子ダイナミクスを明らかにしていく。
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