研究課題/領域番号 |
26870500
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
竹内 宏光 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (10587760)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超流動 / 超低温物理 / ボース・アインシュタイン凝縮 / 量子流体 / パーコレーション / 相転移動力学 |
研究実績の概要 |
以下の番号は研究実施計画の課題の【1】~【4】に対応する. 【1】【4】の成果により,射影された対称性の破れ(PSB)をフェルミオン超流体にも適用される.一方,最近MITの実験グループによってフェルミオン超流体におけるスネーク不安定性が観測された.このグループでは外部ポテンシャルの勾配の影響を無視できる箱型ポテンシャルを使ったフェルミオン超流体の実験が計画されている.申請者が当初想定していた調和ポテンシャル中の現象よりも,MITグループの系ではより鮮明にPSBの効果を観測できるであろう.申請者はこの実験グループを訪問して研究打合せを行った.計画を変更して,箱型ポテンシャル中のPSBの大規模数値計算を現在実施中である. 【2】【4】で一般化されたPSBの理論を,双極子相互作用が強く効いた超流動3He-Bに適用し,国際会議および学術論文として発表した.ランカスター大学で実施された界面対消滅の実験を説明する機構として,【3】で明らかにした秩序化過程のパーコレーションが興味深い可能性としてあげられる. 【3】2次元空間におけるドメイン壁の生成を伴う秩序化過程において長時間生き残る開いた壁(infinite domain wall)の統計的性質を明らかにした.この研究によると,動的スケーリング仮説に基づく解析が成立する長時間の間,開いた壁は非整数のフラクタル次元を保持する事が明らかになった.同様な振る舞いは捻じれネマチック液晶の系においても報告されており,今後【4】と関連して系を跨る普遍的な理解が進展するものと期待される.得られた成果は国際会議および学術論文として公表している. 【4】この研究は【2】と同時進行で行われている.PSBに関して,超流体だけでなく一般の秩序相に適用できる形式で位相幾何学的な考察を与えると共に,射影低次元空間における有効ハミルトニアンの一般的な導出方法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目における課題【2】と【4】に関して予想以上の進展があったために,課題【1】の解析を2年目の後半に先送りしていたが,この時期に研究遂行に充てるエフォートをうまく確保できなかった.その主な理由は,10月から量子流体力学に関する著書の原稿執筆を再開した事と,昨年末に第一子が誕生したことで研究課題遂行に充てる時間が減少したが挙げられる.一方,課題【1】では,MITの実験グループとの研究打合せにより,射影された対称性の破れ(PSB)を検証する上でより理想的な実験系を見出したことは大きい.また,課題【2】に関して,ランカスター大の実験を説明する機構の一つが,課題【3】の秩序化過程のパーコレーション解析によって導かれたことは理解を大幅に進展される重要な成果である.課題【4】では捻じれネマチック液晶との類似性という新たな方向性が見出された.総じて本課題は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
課題【4】の進展により,射影された対称性の破れ(PSB)を統一的に記述する事が可能になった.研究課題遂行の効率化を図るために,個別の系についてPSBを解析するのではなく,冷却原子気体や超流動ヘリウム,捻じれネマチック液晶等の別々の秩序相で共通して起こる物理にアプローチできるように,解析方法を工夫する.また,統計力学に関連する国際会議やワークショップに積極的に参加して非平衡統計力学や非線形科学の専門家との連携を図ることで,新たな方向性を模索する.時間的な余裕が生じれば,個別の系に対して実験を見据えたより具体的な問題にも取り組む.今年度後期に担当する講義は当該年度より増加するため,忙しい中でも研究を少しずつ継続的に進展させられるように,学内業務および研究遂行の効率化する必要がある.
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