研究課題/領域番号 |
26870503
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤原 大佑 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30611420)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ライブラリー / プロテインキナーゼ / ファージディスプレイ / ペプチド / 阻害剤 / オーロラキナーゼ |
研究実績の概要 |
本研究課題では、プロテインキナーゼを標的タンパク質とした特異的分子ツール(阻害剤)設計方法の確立を試みた。平成26年度は、進化分子工学の代表的手法であるファージ表層提示法を基盤としたプロテインキナーゼ指向型マイクロ抗体ライブラリーの作製を試みた。(1)最初に、ファージ表層提示マイクロ抗体へ低分子化合物を導入する手法を確立した。次に(2)マイクロ抗体を基盤としたプロテインキナーゼ指向型二価阻害剤ライブラリーを作製した。 (1) チオール基選択的な化学修飾法を利用して、ファージ表層提示マイクロ抗体の選択的な化学修飾を試みた。ファージには、コートタンパク質にシステインをもたない繊維状ファージ(Cys-Freeファージ)を用いた。まず、ファージのコートタンパク質pIIIに、システインを1残基もつマイクロ抗体を提示させた。マレイミドで標識されたビオチンを加えて修飾した結果、このファージがストレプトアビジンへ選択的に結合することを確認した。このように、Cys-Freeファージ表層上のマイクロ抗体に、マレイミド基をもつ化合物を導入する方法を確立した。 (2) プロテインキナーゼ指向型ライブラリーとして、プロテインキナーゼのATP認識部位結合性の低分子化合物をもつマイクロ抗体ライブラリーの作製を試みた。ATPの構成要素の1つであるアデノシンをATP競合性低分子化合物として選び、これにマレイミド基を導入した化合物マレイミド-アデノシンを合成した。さらにファージ表層提示マイクロ抗体ライブラリーを調製し、このファージ溶液にマレイミド-アデノシンを加えてマイクロ抗体を修飾した。このアデノシンで修飾されたファージ表層提示マイクロ抗体ライブラリーを、プロテインキナーゼ指向型二価阻害剤ライブラリーとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画である(1)ファージ表層提示マイクロ抗体を選択的に修飾する手法の確立、ならびにこの原理を応用した(2)プロテインキナーゼ指向型ファージ表層提示マイクロ抗体ライブラリーの作製した。このことから、本研究課題はおおむね順調に進展している。 (1)一般的に、ファージ表層に提示したポリペプチドを選択的に修飾することは難しい。これは、ファージ粒子がコートタンパク質で覆われており、このコートタンパク質へ融合させて提示したポリペプチド鎖を選択的に化学修飾するのが困難なためである。また、化学修飾によってファージが大腸菌への感染力を失うため、ファージライブラリーを用いたスクリーニングができないことが課題であった。事実、これまでの研究で申請者が用いてきたファージミドベクターpComb3とヘルパーファージを組みあわせたファージ表層提示法では、提示ペプチドの選択的修飾ならびにファージの大腸菌への感染力の維持が困難だった。そこで本研究では、Cys-Freeファージ上にシステインを1つもつマイクロ抗体を提示させ、このチオール基を介してファージ表層提示マイクロ抗体を選択的に化学修飾する方法を確立した。 (2)プロテインキナーゼ指向型ライブラリーを作製するために、プロテインキナーゼに対して弱く結合する低分子化合物の利用を検討した。このような分子として、ATP(アデノシン5三リン酸)の構成要素であるアデノシンを選択した。このアデノシンにマレイミド基を導入した化合物マレイミド-アデノシンを設計して合成した。マレイミド-アデノシンを、調製したファージ表層提示マイクロ抗体ライブラリー溶液に加え、これをプロテインキナーゼ指向型二価阻害剤ライブラリーとした。 このように研究計画(1)(2)を達成できたことから、本研究課題はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究計画に従って本課題を推進する。すなわち、マイクロ抗体を基盤としたプロテイン指向型二価阻害剤ライブラリーを用いて、プロテインキナーゼ特異的阻害剤を獲得する。最初に、(1)作製したプロテインキナーゼ指向型ファージ表層提示マイクロ抗体ライブラリーを用いて、オーロラキナーゼAに対するスクリーニングを実施する。つぎに、(2)スクリーニングで得られるアデノシン-マイクロ抗体二価阻害剤の候補を化学的に合成する。さらに、(3)合成して得られる阻害剤候補について、オーロラキナーゼAに対するキナーゼ活性阻害活性を評価する。最後に、(4)標的分子のオーロラキナーゼ以外のプロテインキナーゼに対しても同様のキナーゼ活性阻害試験を実施し、標的分子特異性を評価する。 (1)まずオーロラキナーゼAを96ウェルプレートへ固定化し、そのキナーゼ活性が維持されていることを確認する。その後、作製したプロテインキナーゼ指向型二価阻害剤ライブラリーを用いて、オーロラキナーゼAに対してスクリーニングを行う。スクリーニング方法は、標準的なファージ表層提示法のプロトコルに準じて実施する。得られるファージクローンのDNA配列を解析し、獲得したペプチドの配列を決定する。 (2)スクリーニングにより得られるアデノシン-マイクロ抗体二価阻害剤の候補を化学合成し、オーロラキナーゼAに対するキナーゼ活性阻害試験を行う。マレイミド化アデノシンと候補ペプチドをそれぞれ合成したのち縮合して二価阻害剤を得る。 (3)(4)候補阻害剤の中から、オーロラキナーゼA阻害活性をもつマイクロ抗体を選び出す。キナーゼ活性阻害試験には、IMAPビーズとTR-FRET法を組みあわせたIMAP TR-FRET法を用いて実施する。候補阻害剤の中から、とくにオーロラキナーゼA阻害活性が高かったものにつき、標的分子特異性を評価する。
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