持続的に循環可能な社会を形成するため、バイオマス資源から作られるバイオディーゼル燃料(BDF)が利用されている。しかし、日本ではBDFの生産量、消費量は非常に少ない。従って、BDFを安価かつ安定的に製造する技術の開発が急務となっている。本研究では、油脂生産酵母により生産された油脂を、環境に優しい酵素法によりBDFへと変換する革新的な環境調和型BDF生産プロセスの開発を目的とした。 今年度は、Bacillus thermocatenulatus由来リパーゼを酵母の細胞表層に高発現させることを試みた。細胞表層へのタンパク質提示量はプロモーター配列、分泌シグナル配列、およびアンカータンパク質などによって制御される。そこで、種々のプロモーター配列、分泌シグナル配列、およびアンカータンパク質から成るコンビナトリアルDNAライブラリーを作製し、リパーゼを高発現可能な組合せを探索した。作製したコンビナトリアルDNAライブラリーにより形質転換した酵母細胞のリパーゼ活性を測定し、リパーゼ活性が向上した酵母を取得した。取得した酵母は従来使用されていたGAPプロモーター、α-ファクター分泌シグナル配列、およびα-アグルチニンアンカータンパク質によりリパーゼを提示した酵母と比較し、5.0倍高いリパーゼ活性を示し、酵母の細胞表層にリパーゼを高発現させることに成功した。また、油脂生産酵母から油脂を抽出し、メチルエステル化を行い、GC/MSで分析した所、その主成分は、リノール酸およびオレイン酸であり、一般的なBDFの原料となる大豆などと同等の組成であることから、油脂生産酵母由来油脂はBDFとして利用可能であることが確認された。 研究期間全体を通じて、油脂生産酵母の油脂生産性強化、酵母細胞表層へのリパーゼの高発現、油脂生産酵母からの油脂の抽出、酵母由来油脂のBDFへの変換を達成した。
|