研究課題/領域番号 |
26870507
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
高木 悠平 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 研究員 (80648973)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 星・惑星形成 |
研究実績の概要 |
普遍的な星および惑星の形成過程を明らかにするためには、形成過程にある星の正確な年齢決定が重要である。前主系列星の年齢は、一般的に測光観測によって得られる光度と有効温度を、星の進化モデルと比較して求める。しかし、測光観測から求められる前主系列星の光度には、星の距離、減光量、前主系列星に付随する原始惑星系円盤の熱的放射(ベーリング)が含まれるため、年齢決定が難しいとされてきた。 本研究では不定性の少ない新たな年齢決定手法を確立し、前主系列星の年齢を正確に決定した。前主系列星は進化とともに収縮し密度が増加し、星表面での重力も徐々に増大するため、星の表面重力を求める事で年齢を導くことが可能である。前主系列星の表面重力は、高分散分光観測で得られる大気スペクトルの吸収線の等価幅を用いて決定できる。この等価幅比は、星の距離、減光、ベーリングに依存しない。 確立した年齢決定方法を用いて、近傍の星形成領域であるおうし座分子雲に属する前主系列星10天体の年齢を決定した。その平均年齢はおおよそ200万年であり、前主系列星の年齢が大きくなるとともに原始惑星系円盤からの熱的放射を表す近赤外域のカラーが減少することが分かった。これにより、おうし座分子雲中の前主系列星の円盤散逸タイムスケールがおおよそ200万年であることが分かった。この結果は日本天文学会 欧文研究報告(PASJ)にて発表した(Takagi et al. 2014, PASJ, 66 88)。 同様の方法を用いて、同じく近傍にあるへびつかい座分子雲の前主系列星の年齢を求め、円盤の散逸タイムスケールを明らかにした。その結果、へびつかい座分子雲ではおうし座分子雲の半分程度である100万年程度で円盤が散逸することが分かった。この結果は、星形成領域ごとに円盤の進化時間が異なることを示している。この結果を論文にまとめ、投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標である普遍的な星・惑星形成過程の解明に向けて、おうし座分子雲とへびつかい座分子雲の2領域における原始惑星系円盤の進化タイムスケールを明らかにすることができた。その結果、星形成領域ごとに原始惑星系円盤の散逸タイムスケールが異なることが判明した。これまでの原始惑星系円盤の進化タイムスケールの議論は、すべての星形成領域においてタイムスケールは等しいという仮定のもとで行われてきたが、本研究の結果によってその仮定を見直す必要があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
より普遍的な星・惑星形成過程を明らかにするため、これまでに観測していない星形成領域の前主系列星の年齢決定と、太陽質量以外の前主系列星における円盤進化タイムスケールの解明を目指す。おうし座分子雲やへびつかい座分子雲では数100万年程度で原始惑星系円盤が散逸することが明らかになったが、一方でペルセウス座にある星形成領域は、年齢が300万年程度であるとされているにも関わらず、前主系列星に円盤が付随しつづけていることがわかっている。このような領域での円盤進化を明らかにするために、前主系列星の高分散分光観測を行う。 また、これまでに確立した年齢決定手法は、太陽と同程度の質量をもつ星に最適化されているが、質量が太陽質量以外の前主系列星に対する年齢決定を行う必要がある。国内外の望遠鏡を用いて、太陽質量以外の年齢決定手法を確立し、様々な星形成領域における円盤進化の質量依存性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度行うことを計画していた一部の海外天文台での観測計画が受理されず、観測を遂行することができなかったため、予定していた旅費を執行することができなかった。また、本年度内に投稿した査読付き論文を年度内までに受理させることができなかったため、論文出版費用や校正に必要な費用が未執行となった。
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次年度使用額の使用計画 |
受理されなかった観測計画の見直しを行い、次年度に観測を実施するべく観測提案書を提出した。また、投稿済みの査読付き論文の改訂作業を進行させており、早い段階での受理を目指す。
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