世界における急激な人口増加に伴い、リン酸の肥料需要が高まると予想される。これについて、下水汚泥の嫌気性消化プロセスで生成する溶解性リン酸塩を析出・固定することで固形肥料として回収する方法を検討した。本方法は、嫌気性消化槽にアルカリ土類金属(カルシウム塩およびマグネシウム塩)を添加するもので、これによって難溶性のリン酸塩が析出する。析出する化学種は添加条件や嫌気性消化槽内の反応時間で変化し、リン酸の飽和溶解度も異なる。そこで、反応に関わる主要なイオン濃度の測定値をもとに、難溶性のリン酸塩が析出する反応を動力学的・熱力学的にモデル化した。 連続実験では、塩化カルシウムを添加すると溶解性のカルシウム濃度とマグネシウム濃度が増加し、対応して溶解性リン酸濃度が低下することが観察された。これは、余剰汚泥の消化で可溶化したリン酸がカルシウムイオンと反応して難溶性のリン酸カルシウムに転換する一方で、溶解性リン酸の濃度が低下することでカルシウムイオンのリン酸マグネシウムの析出が抑制されたことによる。また、塩化カルシウムの添加を停止すると、いったん析出した炭酸カルシウムが急に溶出するようであった。一方の析出したリン酸カルシウムもわずかに再溶出するものの、嫌気性消化槽内では熱力学的に安定で溶解度積の低い化学種に徐々に遷移していくと考えられた。 難溶性カルシウム塩・マグネシウム塩であるリン酸カルシウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムの析出反応をそれぞれ表すための反応マップを作成し、これに基づく連続実験および回分実験の測定値をシミュレーションした。嫌気性消化プロセスにおけるリン酸塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩の析出を反応モデルによって再現できた。
|