研究課題/領域番号 |
26870514
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研究機関 | 宮崎公立大学 |
研究代表者 |
渡邊 英理 宮崎公立大学, 人文学部, 准教授 (50633567)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中上健次 / 崎山多美 / 谷川雁 / 人の移動 / 地域開発 / 都市小説 / 地方 |
研究実績の概要 |
計画通り、中上健次資料館(和歌山県新宮市)で資料調査、聞き取り調査を行い、中上健次文学の発展的考察を進めた。まず、近代以降の人の移動と「地域開発」の文脈の中に中上文学を位置付け直し、学会発表した(2014年7月@山口大学)。「都会」を舞台とする中上の初期小説は、都市小説――近代以降に農村から移動した者たちが住まう都市を描く小説として位置づけられる。また、故郷新宮の被差別部落=「路地」を描き、その解体をも活写する中上の中期小説は、都市の相関項としてある地方のあり方や、「地域」の「開発」を主題化するものだと言える。このように都市小説と「地方と地域の開発をめぐる文学」との系譜として中上文学を再文脈化した。 次に『古事記』の引用と変奏から、開発される土地の記憶の継承を考察し、宮崎県立図書館での講演(2014年9月)、その論文化(2015年3月)、さらに『中上健次集 三』 「月報」への寄稿(2015年1月)を行った。特に、従来の研究では十全には解明されていなかった戦後思想家/詩人の谷川雁との思想的共通性という史脈を明らかにできた点は大きい。 また、当初予定していた干刈あがた研究を次年度以降に回し、崎山多美の研究を先行させた。その理由は、上記の「本土」の「地方都市」「被差別部落」の「開発」と、戦後を「本土」とは異なる位相で体験した沖縄の「開発」を対照することにある。そうした対照性の中で崎山の文学を考察し、学会誌にて発表(2014年7月)、さらに、中国・清華大学編集の論文集では、近代国民国家の枠組みや「主権」概念とは異なる、土地の所有や、アジアとの通路を開く思想として崎山文学を読み解いた(2014年11月)。 上記成果のために、現地調査に必要なノートパソコン等の機器や図書資料の購入などの設備備品費、研究会参加のための旅費(国内)など、計画にそって予算執行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中上健次文学研究の進捗状況が順調である。また中上文学をめぐって近代以降の歴史の中で再文脈を施し、また従来ほとんど注目されていない思想家との共通性を提示するなど、新たな視点をうちだすことができた。今年度予定していた干刈あがた文学の研究と次年度予定していた崎山多美文学の研究との入れ替えは、若干の調査予定の変更を余儀なくしたが、むしろ、その入れ替えが、系譜化という点で問題の所在をより鮮明化することに寄与した。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目に優先的に行うのは、中上健次文学に関する考察を系譜化し、総合化することである。具体的には、中上文学研究を単行本としてまとめる予定である。また、それと平行して、地方と相関的な関係にある都市、都会・東京の「開発」の経験を描く干刈あがたの文学、および不知火海(八代海)沿岸、漁村・水俣という「地域」の「開発」を描く石牟礼道子の文学をめぐって、資料収集、調査、考察を行っていく予定である。上記計画にそって、調査旅行や成果発表の旅費、必要図書や資料の購入、複写など、計画的に予算を執行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
崎山多美文学研究(助成二年目)と干刈あがた文学研究(助成一年目)とを入れ替えたこと、および、中上健次文学研究の総合化として、単行本の執筆を、助成二年目に行うことが主な理由である。そのために、二年目に必要な費用が当初よりも増額すると予測され、一年目の予算を、二年目に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
干刈あがた文学研究のための資料調査にかかる旅費、図書資料費等や、中上健次文学研究を総合化した形での成果公表である単行本の執筆のための調査にかかる旅費、図書資料費として使用する。
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