研究課題/領域番号 |
26870514
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
渡邊 英理 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50633567)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 地域 / 開発 / 差別・被差別 / 思想 / 文学 / 労働 / 資本主義 |
研究実績の概要 |
前年度の成果を踏まえ、和歌山県新宮市の被差別部落出身の芥川賞作家、中上健次の文学が描く同和行政の「開発」、および戦後、熊野地域の「開発」の経験を系譜化し、その変遷を分析した。また、それらを戦後日本思想史や、世界思想史の中に位置付けた。 具体的には、中上文学が、新宮市の被差別部落の「開発」を微細に解析しながら、戦後、熊野地域の「開発」という、より大きな文脈に広域的な視野で位置付けていく手続きや過程、さらには両者を往還し「開発」の総体を明らかとしようとする小説言語の機構や運動性を究明した。「地域開発の思想文学/記録文学」(『地域研究』)は、その成果である。これは中上文学の作家的系譜の展開を解明すると同時に、「開発」をめぐる戦後文学史の一史脈を明らかとする作業だと言える。同時に、当該年度は、「開発」による「コミュニティ」の変化や、「労働力」の変容に対する、中上文学のアプローチにも注目し考察を行った。この作業を通じて、これらに対する中上文学の思想性を提示し、戦後サークル文化運動の中心人物、詩人思想家の谷川雁の思想との共通性を明らかとした。その成果は、『西日本新聞』に連載記事「谷川雁と中上健次」(上)(下)として寄稿し広く社会へ発信した。さらに中上文学が、ポストコロニアリズムの思想、アメリカの黒人解放運動の思想を吸収しながら、思想文学を創造していく過程を究明し、その成果を、「媒介する言葉と路地の夢」(『翻訳の文化/文化の翻訳』)として発表した。これは、1960年代から70年代に展開された「暴力の哲学」をめぐる中上の受容と展開、さらには中上が構想した「解放」の思想と、世界的な脱植民地主義や「解放」思想との共通性と差異を解明するものである。 以上のように、中上文学を文献学的に考察するとともに、広く同時代の言説の中で位置付け、「地域」と「開発」をめぐる現代文学の系譜化を進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中上健次の文学を軸に、本研究の目的である「地域」と「開発」をめぐる現代文学の系譜化を進めることができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
差別・被差別や、階層という主題を前景化する中上健次の文学を、ジェンダーという変数を加え、対照化し、「地域」と「開発」をめぐる現代文学の系譜を多元化する必要がある。そのために、天草、水俣など、九州、熊本地域の「開発」を「女性」の視点を重視して主題化する石牟礼道子の文学や、「奄美二世」の「移民」で、「郊外」の開発を描く「女性作家」干刈あがたの文学などを、考察の対象に加える。それらを、総合化し、「地域」と「開発」をめぐる現代文学の系譜化を多元的な視点で行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の目的では、平成27年度にジェンダーを主題とする作家の研究の一部分は、中上健次研究と並行し行う予定であったが、中上健次研究の総合化を先行させ、ジェンダーを主題とする作家の研究の全てを最終年度にまとめて行うこととした。その分の調査費用が次年度に繰り越されている。
|
次年度使用額の使用計画 |
ジェンダーを主題とする作家に関わる実地調査、資料調査等に計画的に使用する予定である。
|