研究最終年度である今年度は、これまでの成果を総合する作業を行ない、成果公表につとめた。まず4月に、アメリカ、アイオワ大学のInternational Writing Program(IWP)50周年記念の催し「A Half Century Of Japanese Writers in Iowa」に、吉増剛造(詩人)、中上紀(小説家)、アン・マクナイト(白百合女子大学、日本文学研究)、吉田恭子(立命館大学アメリカ文学研究、小説家)らとともに参加し、Lectures On Kenji Nakagami にて講演を行った。この講演では、中上の「開発文学」の「公共性」の思想の醸成過程を検証した。またIWPに中上は1982年の秋冬に参加し執筆活動を行なっている。滞在中、中上紀氏らとともに資料調査・現地調査も行ない、同地での世界各地の作家との交流の一部を究明し、作家の伝記的事実を更新する新たな知見を得た。その成果は、2017年8月の熊野大学夏期セミナー「南方熊楠と中上健次を探る」における中上紀氏との対談のなかで公表された。また同内容は同会の全体シンポジウムで、町田康(作家)、安藤礼二(批評家)、松井竜五(研究者)、辻本雄一(佐藤春夫記念館館長)らとともに討議を行った。 2018年2月には新宮市立図書館にて講演「現代文学と古事記――中上健次・谷川雁・上橋菜穂子」を行い、植民・開発による物語の浸食と抵抗について考察した。ポスト成長期の開発によって変容した土地における文学の問題を中上紀の小説に見出し、「図書新聞」(2017年9月23日号)の書評「路地なき後の世界の現代性を示す、中上紀『天狗の回路』」で論じた。雑誌『昭和文学』第76集(2018年3月)に寄稿した「研究展望」欄の「経済専制とグローバル時代の日本語文学」では、再開発時代の「郊外文学」や沖縄文学について論及した。
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