本研究の初期は、主にTlBrの原材料の精製技術の適正化に注力した。その結果、本研究で検討したフィルタ法や真空蒸留法などの精製法を導入し高純度化を図ることで安価なTlBr原料から目標とする特性を示す検出器が実現できることができた。また、新規精製法を導入することでTlBr結晶を育成するための期間の短縮化につながった。 研究中期から後期は、TlBr結晶の品質の安定化と結晶サイズの拡大および検出器製造時の歩留まりの向上およびエネルギー分析型検出器の実現を目指した。結晶サイズ拡大の検討では、従来の育成法と並行し新規育成法である垂直TMZ法の検討を進めた。その結果、垂直TMZ法で得られたシリンダ状のTlBr結晶は、従来の育成法で得られるTlBr結晶と比較して断面積が約2倍に広がり、結晶の切り出し時における歩留まりが改善されることが分かった。一方、垂直TMZ法で得られたTlBr結晶は溶融時にわずかなボイドが生じやすいなど、TlBr結晶の結晶性は、従来の育成法で得られる結晶と比較して低下する傾向があり、結晶の品質向上には育成速度と育成方向に対して垂直方向の温度分布の適正化が必要であることが分かった。育成したTlBr結晶を用いてガンマ線検出器を製作し、ガンマ線のエネルギー分析性能を評価した結果、原発から放出される137Csのガンマ線(662keV)に対して5~4%の分解能を持つことが分かり、線量率計における十分なエネルギー弁別性能を持つことが分かった。本研究では実際の廃炉現場で利用可能な線量率計の実現までは至らなかったが、TlBrの一連の製造工程に亘る広範囲な検討によりTlBr結晶の効率的かつ安価な量産につながる基盤技術が確立されたことは、高感度線量率計をはじめTlBrガンマ線検出器の応用を加速させるための有用な成果であると考える。
|