本年度は研究目的 (2) SBL および他の RNaseの抗腫瘍作用に関わるレセプター様分子の探索、および (3) アスベスト禍の問題で注目される悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果に焦点をあて研究を行った. (2)に関し,昨年度に引き続きビオチンラベルトランスファー実験による SBL のレセプター様分子の探索を行った.MS 分析の結果,アクチンがその標的分子として同定され,in vitro における結合実験においてもその結合を確認した.近年,細胞表面のアクチンは抗腫瘍性T2リボヌクレアーゼのレセプターとして報告され,新規のがん標的になる可能性が議論されており,アクチンが SBL の抗腫瘍性に関わる可能性が示唆された今回の結果は非常に興味深いものになった.今後これらの詳細な機構を精査する必要がある. (3) に関し,現在,悪性胸膜中皮腫に対する化学療法は限られており,本邦においてはペメトレキセド (Pem) とシスプラチン(Cis)の併用療法のみ適応が認められているが,奏功率の低さや耐性の出現が問題になっており,新規薬剤の開発が期待されている.今回,悪性胸膜中皮腫に対する SBL の抗腫瘍効果を Pem および Cis と比較し,また,SBL とそれらの薬剤との併用効果について検討した.その結果,SBL が Pem や Cis と比較してより広範囲およびがん細胞選択的な抗腫瘍効果を示すことが明らかになった.さらに,Combination index を用いた相乗効果解析の結果から,SBL と Pem を併用した場合相乗的な抗腫瘍効果が観察され,その相乗性は既存療法である Pem および Cis の併用と同等以上であることが示された.これらのことから,SBL が新規の悪性中皮腫治療薬になる可能性が期待できる.現在 in vivo における SBL の有効性の検証を予定している.
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