研究実績の概要 |
本研究の目的は,子どもを含めた家族のウェルビーイングを,発達精神病理学的アプローチにおいて不可欠な,多面的,縦断的な研究デザインを用いて検証することである。これまで,子どもの前での両親の夫婦間葛藤の実態や,夫婦間葛藤時の子どもの反応と子どもの問題行動との関連について,共同養育coparentingと夫婦間コーピングdyadic copingに焦点を当て,夫婦関係の質が家族全体のウェルビーイングにどのように関連するのか,検証してきた。 最終年度は,これまでの成果の一部を踏まえて国際学会(ISSBD, 2018年7月)での発表を行った。具体的には,父,母の養育行動と,教師評定による子どもの対人行動傾向データ(n=150)を用いて分析を行い,父母の否定的養育行動(心理的統制)が子どもの攻撃行動(身体的攻撃,関係性攻撃)の高さと関連することを示した。また最終年度では,家族と子どもの発達に関する縦断的調査のフォローアップ調査(115家庭に対する郵送調査)を実施し,41名分の調査データを回収した。これまでの観察調査データ並びに質問紙調査データを統合し,両親間の不和が,子どもの両親間葛藤時の情動反応や両親の養育行動を媒介として,子どものウェルビーイングと関連する多面的・縦断的モデルを検証した。具体的には,両親の夫婦間葛藤時の子どもの情動反応に焦点を当てた情緒安定性仮説(EST: Emotional Security Theory, Davies & Cummings, 1994)および,新たに提示された改訂版EST(EST-R, Davies & Martin, 2013)に基づき,両親間の不和が,子どもの否定的情動反応を生じさせることによって,問題行動に発展していくという道筋とともに,子どもの主体的なコーピング行動に関連する調整変数を検討し,論文化,投稿中である。
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