研究課題
骨を形成する骨芽細胞と骨髄の脂肪細胞は共通の前駆細胞である骨髄の間葉系幹細胞から分化する。加齢や骨粗しょう症などの病態では、骨髄の間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化が抑制され、その代わりに脂肪細胞分化が亢進する。その結果、海綿骨が脂肪組織に置換される黄色骨髄となり、この黄色骨髄化が進行すると骨量が低下し骨折が起こりやすくなるが、黄色骨髄化のメカニズムには不明な点が多い。本研究課題は、転写共益因子であるTLE3 の間葉系幹細胞の運命決定メカニズムにおける役割を検討することで、骨をはじめとする間葉系幹細胞由来組織の再生を目指すものである。申請者らはこれまでにTLE3 が脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPAR gammaに作用することで骨髄の間葉系幹細胞の脂肪細胞分化を亢進し、それとは逆に、骨芽細胞分化のマスターレギュレーターであるRunx2に作用することで骨芽細胞分化を抑制するメカニズムを見出したが(Kokabu S et al., 2013)、しかしながらTLE3の機能には未だに不明な点が多い。そこで、今年度われわれはTLE3の間葉系幹細胞の運命決定に対するTLE3の機能をさらに検討したところ、このTLE3が間葉系幹細胞において、生理的条件下で脂肪分化を抑制し骨芽細胞分化を促進する古典的Wntシグナルを抑制し、さらにWntシグナルはTLE3の発現を誘導することを明らかにした (Kokabu S et al., 2014)。すなわち、TLE3はRunx2やPPAR gammaに直接作用するだけでなく、Wntシグナルを介した経路でも脂肪分化促進と骨芽細胞分化を抑制し黄色骨髄化に関与している可能性があり、TLE3の発現や機能を抑制する方法が確立できれば、黄色骨髄化を防ぎ、質の高い骨を維持したり再生したりする方法の開発に寄与できるかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書提出以降TLE3の間葉系幹細胞における新たな作用を見出し、論文として既に報告することができたため。
間葉系幹細胞特異的TLE3ノックアウトマウスを用いて大腿骨骨折モデルおよび頭蓋骨欠損モデルを作製し、骨折修復および骨欠損修復におけるTLE3の役割を検討する。申請者らは骨折および骨欠損モデルマウスを用いた実験のノウハウが豊富にあり、さらに形態計測やIn situ hybridization法, 免疫染色法などを用いた骨組織の解析技法にも習熟している。そのため、これらの実験は十分に遂行可能と考える。
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FEBS Lett
巻: 14 ページ: 614-619
doi: 10.1016/j.febslet.2013.12.031.