研究課題/領域番号 |
26870562
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
藤原 亮一 北里大学, 薬学部, 助教 (40631643)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ビリルビン / 抗酸化作用 / 薬物代謝酵素 / UGT1A1 / グルクロン酸抱合 / 核黄疸 |
研究実績の概要 |
哺乳類はビリベルジン還元酵素 (BVR) を獲得しているため、生体内でビリルビンを生成する。ビリルビンは神経毒性を有しており、新生児期の重度の黄疸は脳障害である核黄疸を発症させる。現在までに、致死性である核黄疸を発症するリスクを負ってまで、ヒトが生体内でビリルビンを生成する生理学的意義は解明されていない。神経毒性を有する一方で、ビリルビンは非常に強い抗酸化作用を有することが近年明らかにされた。抗酸化反応は生体防御機構にとって必要不可欠な現象であり、例えば現在までにLDLコレステロール値の減少や抗ガン作用に関与していることが証明されている。本研究の目的は世界で唯一の高ビリルビンマウス(ヒト化UGT1マウス)を用い、ビリルビンが持つ生理学的意義の解明を行うことである。本年度は、1. 脳内におけるビリルビン代謝酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素1A1; UGT1A1)の発現・機能、2. 新生児期におけるUGT1A1発現調節、3. ビリルビンが有する抗酸化作用、の3点について研究を行った。 1. ヒト脳にはビリルビン代謝酵素であるUGT1A1をはじめ、UGT1A3、1A6、1A10など複数のUGT1A分子種が発現していることが明らかとなった。また、ヒト化UGT1マウスの脳においても同様のUGT1A分子種の発現パターンが認められた。脳ミクロソームにおいてUGT1A1活性が認められた。 2. 新生児期においてUGT1A1は母乳成分によって転写制御を受けていることがこれまでの研究で明らかになっている。本年度の研究により、UGT1A1の転写制御には転写因子であるSP1が大きく関与していることを明らかにした。 3. 高ビリルビンを呈するヒト化UGT1マウスにおける血中過酸化脂質(LPO)濃度は、野生型と比べ低い傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では1. 脳内におけるビリルビン代謝酵素(UGT1A1)の発現・機能、2. 新生児期におけるUGT1A1発現調節、および 3. ビリルビンが有する抗酸化作用、の3点について研究を行った。いずれの研究課題も計画通り研究が進展し、以下に示す知見を得ることが出来た。 1つ目の研究ではヒト化UGT1マウス脳はヒト脳と同じ発現パターンを示すことが明らかとなり、本研究成果は ヒト化UGT1マウスが脳UGT1A1の重要性をin vivoにおいて明らかにする際に有用であることを示すものである。また2つ目の研究ではUGT1A1の転写制御には転写因子であるSP1が大きく関与していることを明らかにした。核黄疸の発症は母乳摂取児に多いことから、本研究成果は新生児期におけるSP1の活性化が核黄疸の発症の予防につながる可能性を示すものである。また最後に、ヒト化UGT1マウスにおける血中過酸化脂質(LPO)濃度は、野生型と比べ低い傾向が認められた。ビリルビンは抗酸化物質であることから、ヒトは新生児期に高ビリルビン血症を発症することで、生体内で脂質の過酸化を防いでいる可能性が示唆された。 以上のことより、本年度はおおむね順調に研究が進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ビリルビンは神経毒性を有する一方で強い抗酸化作用も有する。酸化ストレスや抗酸化作用による生体内への影響の多くは標的遺伝子の発現量変動に起因する。高ビリルビンマウスにおいてはビリルビンがもたらす抗酸化作用の程度が異なることから、抗酸化作用の標的遺伝子の発現量が異なることが予想される。そこで、今後はDNAマイクロアレイ法による網羅的な解析を行い「ビリルビンによって制御される遺伝子」の同定を行う。さらに、RNA抑制(RNAi)技術を用い、標的遺伝子の機能抑制をin vitroやin vivoで行い、抗酸化作用への影響を明らかにする。また、標的遺伝子の過剰発現系を構築し、抗酸化作用への影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度の最終月(2015年3月)に開催された国際学会に参加した際の旅費の一部の支払い手続きが遅延したため。
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次年度使用額の使用計画 |
該当年度の最終月(2015年3月)に開催された国際学会に参加した際の旅費の一部として使用予定である。
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