ビリルビンは赤血球等に含まれるヘムの生分解産物である。ビリルビンは神経毒性を有する一方で、強い抗酸化作用も示す。このような生体内におけるビリルビンの生合成は哺乳類において限定的に認められる。また、哺乳類の中でもヒトは新生児期に生理的な高ビリルビン血症(黄疸)を発症する。従って、ヒト、とくにヒト新生児は、何らかのビリルビンが有する抗酸化作用による利益を得ていると予想されるが、現在までにそのような影響は報告されていない。 ビリルビンは生体内においてUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A1によって選択的にグルクロン酸抱合を受けて代謝される。UGT1A1は甲状腺ホルモンであるT4の代謝酵素でもあることから、ビリルビンは新生児期にUGT1A1によるT4の代謝を競合的に阻害し、血中のT4濃度を高め、T4の作用を強めている可能性が示唆された。そこで本研究では、UGT1A1によるT4の代謝に着目し、1. 脳部位(大脳、中脳、小脳、海馬、嗅球)におけるUGT1A1の発現解析、2. ヒト化UGT1マウスおよび野生型マウスにおけるT4代謝に対するUGT1A1の重要性、の2点について研究を行った。 1. 前年度までの研究で、脳においてUGT1A1が発現していることを明らかにした。本年度は、脳の各部位においてUGT1A1がどのように発現しているのかを明らかにするため、脳を摘出した後に大脳、中脳、小脳、海馬、嗅球を単離し、各部位よりRNAを抽出した。リアルタイムPCR解析をしたところ、新生児期にはどの部位にもUGT1A1が発現しており、その発現は中脳で顕著に高いことが明らかとなった。 2. 新生児期において、野生型マウスの血中ビリルビン血は低値を示すのに対し、ヒト化UGT1マウスは10-15 mg/dLと高いビリルビン血を示した。T4濃度もヒト化UGT1マウスで高値を示した。
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