研究課題/領域番号 |
26870568
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
千葉 菜穂子 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (50420815)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 侵襲性肺炎球菌感染症 / capsular switching / MLST / 莢膜遺伝子 |
研究実績の概要 |
2010年4月~2013年3月までの3年間に全国規模で収集されたIPD由来株(n=1,317)の中から無作為に500株を抽出し,ゲノム上の7種のhousekeeping遺伝子解析,すなわちmultilocus sequence typing(MLST)解析を実施し,本研究の基礎データとなるsequence type (ST)を決定した。得られた500株のデータに以前解析した343株のデータを加え,すでに決定されている莢膜型と耐性遺伝子型とともにデータベース化した(全843株)。 全843株のSTの近似集団を表すclonal complex(CC)は49種,singletonが7種,STが168種であった。もっとも多いSTは,ST3111(n=50),次いでST236(n=49),ST433(n=47)であった。由来は順にUS,Taiwan,Poland,いずれも海外由来の菌株であった。 全843株の中から,莢膜をコードする遺伝子(cps)の組み換え(capsular switching)が生じたと推定される2株を病原性の高いムコイド型の莢膜型3型菌において見出した。3型菌は一般的にgPISP(pbp2x変異),ST180(CC180)であるが,その2株はKK0981株(gPRSP(pbp1a+2x+2b変異);ST242(CC242)),KK2707株(gPISP(pbp2b変異);ST4846(CC1527))であった。KK0981株およびKK2707株と同様のST株が有する一般的な莢膜型は,ST242が23F型,ST4846は12F型である。 capsular switchingと同時に,cps遺伝子の近位に存在するβ-ラクタム系薬耐性化に関わる細胞壁合成酵素(PBP)の遺伝子組み換えも生じたことが推定されたため,来年度のゲノム解析に先立ち,KK0981株とその菌株が生ずる元となったと推定されるKK1157株(gPRSP;ST242(CC242),23F型)についてPBP1Aおよび2X遺伝子の全領域を解析した。その結果,配列は一致していた。したがってKK0981株は,「pbp2x-cps (莢膜遺伝子)-pbp1a」領域のPBP1Aおよび2X遺伝子よりも内側に位置する領域で組み換えが生じたと推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究目標は,2010年4月~2013年3月までの3年間に全国規模で収集された侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)由来株の中から無作為に抽出した500株について,今回の研究の基礎データとなるsequence type (ST)を決定することであった。その方法はゲノム上の7種のhousekeeping遺伝子の解析,すなわちmultilocus sequence typing(MLST)解析をシークエンサーを用いて実施し,得られたDNA配列をDNA解析ソフトにて整え,MLSTサイトでallele profile(7遺伝子の個々番号)を獲得し,STを決定した。サンプル数は500株×7遺伝子=3,500検体+再検分であったが,この膨大な量の解析は今回効率的な手法を構築したことで実現した。 MLSTサイトで得られた個々の菌株のSTは,すでに決定されている莢膜型と耐性遺伝子型と共にデータベース化した。このデータベースをもとに,莢膜をコードする遺伝子(cps)の組み換え(capsular switching)が生じたと推定される2株は,病原性の高いムコイド型の莢膜型3型菌において見出すことができた。 一般的な3型菌はβ-ラクタム系薬に軽度耐性のgPISP(pbp2x変異),ST180(CC180)株であるが,2株のうち1株はKK0981株(gPRSP(pbp1a+2x+2b変異);ST242(CC242))であった。ST242株は一般的に莢膜型23F型である。そこで組み換え体が生ずる元となったと推定されるKK1157株(gPRSP;ST242, 莢膜型23F型)と本研究で新たに見出された組み換えが生じたと推定されるKK0981株のPBP1Aおよび2Xの全領域を比較し,同一であるという結果を得ることができた。 以上のことから計画通りに実施できていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた莢膜をコードする遺伝子(cps)の組み換え(capsular switching)が生じたと推定されるKK0981株(gPRSP;ST242, 莢膜型3型)と組み換え体の元となったと推定されるKK1157株(gPRSP;ST242, 莢膜型23F型)および一般的な莢膜型3型株であるKK381(gPISP(pbp2x変異);ST180)について,全ゲノム解析を次世代シークエンサーを用いて実施する。得られたデータについて,「pbp2x-cps (莢膜遺伝子)-pbp1a」コーディング領域(約50Kb)を中心に,配列に相同性のある領域とない領域をDNA解析ソフトを用いて比較する。この比較により,どの位置で遺伝子組み換えが生じたのかを明確にする。 得られた成果は国内または国際学会にて発表し,論文化する予定である。
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