研究課題
Thymidine phosphorylase (TP) は、広範な腫瘍で高発現しており、血管新生、増殖、浸潤、および抗がん剤耐性に重要な役割を担っている。しかしながら、TPがどのような分子メカニズムでがんの進展に貢献するのか、その詳細は明らかになっていない。今回の検討で、次のことが明らかになった。1.ヒト類表皮がん細胞(KB3-1)にTP遺伝子を導入したTP安定発現細胞(KB/TP)をラベル化thymidine(deoxyribose部位に炭素の同位体13Cを有するthymidine)で処理して、詳細なthymidineの異化代謝経路について調べた。継時的な代謝変化について調べた結果、thymidine由来のdeoxyribose類(DDRs)は解糖系およびペントースリン酸経路に短時間(10-30分)で移行していることが判明した。また、fructose-1,6-bisphosphatase 1(FBP1: 糖新生の律速酵素)をsiRNAでノックダウンした結果、DDRsからのペントースリン酸経路への異化代謝が阻害された。DDRsは糖新生経路を介してペントースリン酸経路に移行することが明らかとなった。2.TPおよびthymidineがエネルギー代謝関連遺伝子(解糖系、ペントースリン酸経路およびTCA回路の代謝酵素)の発現に影響を与えるか、PCRアレイを用いて検討を行った。その結果、TPはpyruvate dehydrogenase kinase 4 (PDK4)の発現を亢進し、さらにthymidineはその作用を増強させた。PDKはpyruvate dehydrogenaseを阻害することで、解糖系からクエン酸回路への代謝を抑制する。TPはPDK4の発現を亢進し、クエン酸回路の代謝を抑制することが示唆された。3.2-deoxy-L-ribose (DLR)がDDRsの代謝を阻害するのか、検討を行った。その結果、(thymidine由来の)DDRsの異化代謝経路に対して、DLRは影響を与えなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度計画分については、当初の予定通り遂行できている。
1. 胃癌組織ではTPの発現が亢進しており、予後との相関が認められている。そこで、胃癌組織および隣接した非癌組織におけるthymidineおよびDDRsレベルについて調べる。次に、TPの発現およびDDRsレベルが、解糖系およびペントースリン酸経路の代謝物質レベルと相関するか検討する。また、このthymidine異化代謝が腫瘍の血管数、腫瘍の大きさ、転移および予後に関与するか明らかにする。2. TP発現がん細胞において、thymidineがglucoseの代替的エネルギー源として細胞の生存および増殖に貢献するのか検討する。低glucose培地でTP発現がん細胞を培養し、thymidineを添加することで生存および増殖が変化するか調べる。さらに、ATPおよびNADPHレベルの変化についても調べる。3. これまでの報告で、TP発現がん細胞からDDRが放出され、それが血管内皮細胞に作用することで遊走性が亢進し、血管新生を引き起こすことが示唆されている。しかしながら、その分子機構は不明な点が多い。我々は、DDRが(がん細胞と同様に)血管内皮細胞の代謝に影響を与えることで、生理活性を示しているのではないかと考えている。がん細胞から放出されたDDRが血管内皮細胞内に移行し、エネルギー代謝(解糖系、ペントースリン酸経路)に貢献することで、遊走能を亢進させる可能性がある。そこで、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をラベル化DDRで処理して、解糖系およびペントースリン酸経路の代謝物質レベルについてCE-MSで調べる。ATPおよびNADPHレベルの変化についても検討する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件)
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