平成27年4月に九州大学で開催された「九州ドイツ文学会」において、「植物的自律性の思想」と題して研究発表を行った。本発表においてはカントの体系理論が動物的身体性をモデルとしているのに対し、フリードリヒ・シュレーゲルの断片思想が植物性をその形成モデルとしていることを指摘したうえで、後者の植物的有機体のシステムがヘーゲルの有機的形成システムと大きくことなることを明らかにした。 10月には日本独文学会研究発表会(於:鹿児島大学)においてシンポジウム「旅と啓蒙」に提題者として参加、初期ロマン派において空間の記述のあり方がいかに変容を遂げてゆくかを報告した。本研究課題との関連でいえば、ロマン派の空間記述が弁別的な名詞性を捨て、動詞的ダイナミズムに従っていることが重要と思われる。一見脈絡のない動詞の連なりによって現出する空間性は、シュレーゲルにおける植物的生長モデルと重なるところが多いからである。本報告の成果は現在印刷中。 平成28年2月にはゲーテ自然科学の集い東京研究会(於:慶應義塾大学)において「哲学という実験――フリードリヒ・シュレーゲルの超越論的哲学」と題して研究発表を行った。シュレーゲルの同講義を「さまざまな断片を要素とし、それら要素の結合・分離を通じてあらたな概念を産出する化学的実験行為」とみなし、一見するところ無機的・化学的な論理構成の中から有機的なプロセスが生まれ、そのプロセスにこそロマン派固有の植物性が見出されることを明らかにした。本研究発表の成果は目下論文として執筆中である。
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