研究課題
平成26年度には統語理解障害を呈する脳腫瘍患者を対象にfMRIと拡散テンソル画像を組み合わせた研究により、統語処理には右半球や小脳などを含む14の脳領域が関与し、それらの脳領域は機能的かつ解剖的に3つのネットワークを構成することを明らかにした。平成27年度には左前頭葉の神経膠腫が脳内ネットワークの機能的結合性に与える影響を明らかにするために,神経膠腫患者のfMRIデータの時系列に関する偏相関解析を行った。その結果,神経膠腫の存在により脳内ネットワークの機能的結合性が乱れることが明らかとなったにした。興味深いことに,この影響は腫瘍存在部に限定されず,ネットワーク全体に及ぶこと,すなわち,ネットワーク全体の機能的結合性が乱れることが明にした。平成28年度は脳腫瘍患者の術中マッピングにおいて、左下前頭回に脳腫瘍があると言語野の同定が困難になることを見出した。この知見は、言語ネットワークにおける左前頭葉の重要性を示すものである。さらに、本研究で明らかとなった統語処理の脳内ネットワークを過去の文献と比較検討し、過去に推定されてきた言語ネットワークが可視化されていることを報告した。先行研究の積み重ねにより築き上げられてきた概念に,近年の神経画像技術がようやく追いついてきつつあることを示すことができた。以上の成果をまとめると、神経膠腫による言語機能障害は、「言語の脳内ネットワークが機能的に再編された結果、健常者とは異なる言語処理を行うために生じる」ことが明らかとなった。特に、統語処理に関する脳内ネットワークについては左下前頭回がネットワークの中枢として機能する可能性が示唆された。この知見は、健常者の認知機能だけではなく、高次脳機能障害の研究・リハビリテーションなどを考えるうえでも脳内ネットワークを考慮することが重要であることを示唆する。
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Journal of Neurosurgery
巻: 125 ページ: 803-811
10.3171/2015.8.JNS151204
高次脳機能障害学会
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