平成29年度は、これまでの収集資料を中間的にとりまとめて、その成果物を基に中国の研究者と意見交換を行い、中国における不動産取引の権利関係、特に権利の客体の実態を明らかにすることを目的として、計画に沿い研究に従事した。 これまでの研究の取りまとめとしては、長友昭「中国物権法制定以降の不動産をめぐる諸論点――ルビコンのその先に」早稲田法学92巻3号において、中国における不動産法制の大きな分岐点といえる物権法の制定に着目し、同法の制定を「資本主義へのルビコンを渡った」と評する小口彦太の議論(小口彦太「ルビコンを渡った中国法--物権法制定をめぐって」比較法学42巻1号)を手掛かりに、物権法以降の不動産取引の実態とそこで取引される権利の態様とその改革の到達点について考察した。また、長友昭「不動産売買における予約契約の法的性質をめぐる覚書きーー予約契約の効力と販売許可の有無をめぐる事例から考える」『中国の法と社会と歴史』成文堂および中国契約法における不動産関連部分の翻訳(王利明著、小口彦太監訳、胡光輝=伹見亮=長友昭=文元春翻訳『中国契約法』早稲田大学出版部2017年所収)を公表し、これらを基に中国重慶市で研究者と大学院生を交えた意見交換会を開催した。 近時、証券化の発展と停滞が見られる一方で、農地における「三権分置」の展開などがあり、これがひとまず権利の多元化と捉え得る。この点で、所有権論および日本の状況との比較の視点から、2018年の農業法学会春季研究会で報告を行い、その一端を長友昭「最近の立法・政策における土地の所有者問題――農地・森林の所有者不明土地に関する共有関係と相続未登記の法的課題を中心に」拓殖大学論集 政治・経済・法律研究20巻2号、(奥田進一=高橋雅人=長友昭=長島光一編『法学入門』成文堂2017年にも関連記述あり)で公表した。中国の土地所有権論との比較が期待できる。
|