本研究は、災害に対するレジリエンス(回復力)構築のために、コミュニティにおける女性のエンパワーメントが重要であることを明らかにすることである。 最終年度である平成27年度は、昨年度に引き続き以下の3点を検討した。(1)各コミュニティの特徴と災害リスクの整理 (2)災害リスクのジェンダー格差の分析 (3)災害に強いコミュニティを作る手法の検討
(1)災害による人的被害は物理的被害の大きさと必ずしも一致しないことを、東日本大震災による津波の浸水深と死亡率の関連の検討から明らかにし、学術論文として報告した(Public Health. 2015; 129(10).)。浸水が深いにもかかわらず死亡率が低いコミュニティは、地形やコミュニティの特徴、特に高台へのアクセスや人々の結びつきが重要な要素となる可能性を示し、災害に対するレジリエンス構築のための今後の公衆衛生対策に有用な知見が得られた。 (2)災害リスクのジェンダー格差について、東日本大震災から1-2年後に実施した在宅被災世帯における健康・生活調査の結果を用いて分析した。男性よりも女性の方がメンタルヘルス不良者の割合は多く、またメンタルヘルスの不良に関連する要因は男女で異なっていたことから、性別により異なるサポート方法の必要性、特に脆弱な女性のコミュニティにおけるエンパワーメントの充実が必要であることが示唆された。この検討は、ジェンダー医学を専門とするオーストラリアMonash大学Jean Hailes研究所からも助言を得て実施し、結果を現在学術論文として投稿中である。 (3)災害に強いコミュニティを作りに関しては、東日本大震災後に配置された地域支援専門職へのインタビュー調査を通し、コミュニティ・エンパワーメントに有用な手法を検討中である。質的分析から明らかになった結果について、現在学術論文を作成中である。
|