研究課題/領域番号 |
26870598
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
酒匂 宏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70708338)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 距離空間 / 作用素環論 / 離散群論 |
研究実績の概要 |
本研究の主題は距離空間の幾何学と作用素環論である。本年度は離散群論で培われた知識を生かすことによって、期待以上に研究を進めることができた。この点については研究論文とプレプリントをあわせて複数発表することができた。また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校における研究集会で発表し、東北大学での国際研究集会で発表を行うなど広く内外の研究者に研究成果を公表することができた。 作用素環論と幾何学、とくにトポロジーの剛性問題には古くから深い関連が指摘されており、コンヌによる非可換幾何学の重要な動機を与えている。本年度は作用素環論の知識をベースにしながら距離空間の幾何学に切り込む研究を行うことができた。距離空間の幾何学における重要な例は離散群によって与えられることがこれまで多かった。私はそれをさらに推し進めて、離散群から離散距離空間をよりたくさん構成する方法を発見した。 距離空間を単に構成しただけではない。構成された距離空間の性質を調べるための手法も同時に与えた。この方向性においてはグリゴルチュックによって発見されていたケーリー位相に注目したことが進展の契機になった。離散群の列が与えられたとき、そこから二つの数学的対象を作ることができる。ひとつは非交和によって離散距離空間をつくることであり、もうひとつはケーリー位相によって得られる極限群である。この二つがきれいに対応している状況が多く、新しい定理を複数発見することができた。この定理を使うことで比較的に研究が進んでいる離散群の知識を距離空間の分類に用いることができるようになった。 以上のように作用素環論、距離空間の幾何学、幾何学的群論という三者を股にかけた新しい視点を開発することができた。研究発表を行うことで数学界に結果を紹介をすることができた。またプレプリントや論文の形にまとめ、研究成果を公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画の通り、距離空間の幾何学と関数解析学について研究を進めることができた。東北大学見村氏、京都大学の小沢登高氏、東京大学の鈴木悠平氏と連絡を取り合う中で、思わぬ発展がなされ、当初の計画よりも研究が順調に進んだ。 まず注目したのは離散群を用いて距離空間の例を構成することである。従来の研究では1つの有限生成離散群から距離空間が構成されてきた。そこで平成26年度の研究では、離散群の列から離散距離空間の列を構成する方法に開発して進展させた。Box空間と言う有限商群の拡大列を用いる方法を大幅に一般化させるものである。 単に距離空間の例を増やすだけでなく。距離空間の性質を調べる方法論も確立することができた。距離空間の関数解析的特性は、ケーリー位相極限の群論的性質にきれいに対応していることが判明した。ここで述べた群論的性質の判定については離散群論の伝統的な手法を用いることができる。新しい方法で構成された距離空間の個性は群論の知識で持って捉えて、調べることができるのだ。 このような視点は新規性が高く、注目を集めることとなった。国内の若手勉強会で講演を行うほか、各種セミナー等の機会も多数得た。新しい視点は難解であることが常であるが、論文等で比較的すっきりした形に主定理をまとめることができた。従順性に当初注目していた研究であったが、バナッハ空間への埋め込み可能性やプロパティーTに関係する研究へと発展した。連作の第三弾では、小沢氏鈴木氏との共同研究が実現し新たな発展をみた。 距離空間の列の研究は距離空間の研究の中心的な課題である可能性が、とくにバナッハ空間への埋め込み可能性の観点から示唆されている。そのうちとくに離散群によって作られた距離空間の列についてえられたのが本年度の主な成果である。今後の更なる発展の契機も見つかり、次年度以降の方向性を決めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年国際研究集会での発表を二件行ったが、今後も特に海外における研究発表の機会を増やしていく予定である。日本に限らず海外研究者との交流を増やすことにより互いの研究の進展が導かれるような情報交換を行いたい。また研究集会や学会と言う形だけでなく、研究のための短期滞在等も行い人的交流を活発にする中で平成27年度以降の発展の契機にしたい。 続いて数学的な研究方針について述べる。群論の知識を生かして距離空間を構成できたことを踏まえたい。一般の離散距離空間に対しては群のようなきれいな代数構造は期待できないが、亜群と呼ばれる群の一般化を距離空間から構成できる。亜群は非可換幾何学では一般的に用いられる道具立てであるため、そこで培われた研究手法について情報収集を行うことにより、さらなる発展を期待できる。 平成26年度に得られた成果は、離散群の列から得られる距離空間と、離散群のケーリー位相の意味での極限群のきれいな対応であった。有限距離空間の列からえられる無限離散距離空間の一般論を確立するためには群の世界から一歩踏み出す必要性がある。それが亜群に注目する動機である。 また距離空間の研究全般の中で有限距離空間の列が持つ理論的意味が徐々に発見されてきている。有限距離空間の列の研究は特別な対象の研究ではないことを示唆するような、新たな定理の発見を目指していきたい。
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