研究実績の概要 |
本研究によって、距離空間の大規模構造と、距離空間に付随して定義される作用素環の性質が相互に関連していることがわかった。 特に有限生成群の列を距離空間と捕らえその漸近挙動を調べる研究課題については多くの成果が得られ、東北大学の見村万佐人氏の協力を得ながら論文としてまとめることができた。この研究課題についてはGroup approximation in Cayley topology and coarse geometry ; Part I, Part II, Part IIIと題した三部作の形で研究成果を発表できた。うち一件はすでに雑誌に掲載されており、残り二件は投稿中である。 距離空間からTranslation C*-環を構成して, 有限次元近似性質を調べる研究課題についても単著論文として成果をまとめることができた。本研究以前には離散群Gの従順性は関数解析的に言い換えることができることは知られていた. その考え方を発展させて離散距離空間X の大規模構造を作用素環によって表現し, 距離空間の様々な性質を結びつける非自明な定理を発見することができる. 論文で距離空間の二つの性質`Property A'と`作用素ノルムが局在しないこと'が同値であることを示した. この特徴づけは応用が広く, ネットワークの理論とも関連する. 粗い距離空間(Coarse Space)についてProperty Aと呼ばれる性質が定義されるが、その概念を整理し、基本的な命題を整理したPreprintは好評で、すでに数多く引用されている。 研究を進めていく中で他分野との思わぬ接点を見出すことができた。量子物理学における確率現象の解析においてある種の離散構造が現れ、その上の線形作用素が重要な意味をもつ。距離空間の関数解析的研究と量子確率論とのつながりを発見できた。
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