医療訴訟の頻度が高い産科領域では、これまでの判例にも示されているように、十分なインフォームドコンセントの取得が重要である。一方で、産科処置・手術が必要な状態になってからでは、インフォームドコンセントを取得する時間的な余裕がないことは、しばしば経験される事態である。このような状況を鑑み、分娩に際して行う可能性のある産科処置・手術に関して、事前に妊婦(とその家族)に対して説明文書を用いて説明を行っておくことが考慮される。 まず本研究では、分娩時に必要となる可能性がある産科処置・手術(分娩促進、会陰切開、吸引・鉗子分娩、帝王切開分娩、産後出血への対応等)に関する、説明文書(案)を作成した。説明文書(案)の作成にあたっては、周産期医療領域の専門家・医療スタッフに加えて、妊婦や法律の専門家等の意見を聴取した。妊婦については、作成した説明文書(案)の分かりやすさ、情報希求度、情報提供量、安心感等に関する半構造化面接を行った。また、このような説明文書の法的な位置づけを整理すべく、法学者による判例検索を実施し、コンサルテーションを行うなどした。 このように最終化した説明文書を用いて、事前に妊婦(とその家族)に対して分娩時に必要となる可能性がある産科処置・手術についての説明を行うことにより、妊産婦の認識(分娩にあたっての医療スタッフに対する信頼感や安心感、医療スタッフとのコミュニケーション、医療スタッフからの説明についての認識、分娩に関する満足度等)にどのような変化が生じるかを評価する研究を計画し、研究実施体制を整備した。研究代表者の産前産後休暇・育児休業の取得に伴い、一時研究を中断したが、その後研究を再開し、調査を行っている。
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