研究課題
日常的なコミュニケーションにおいて相互支援的な社会が形成されるためには、他者に共感を示すことと同様に、他者から共感を得ることも非常に重要である。本研究ではこれまでの研究を発展させ、高次感情の表出と知覚の関連性を確認した上で、他者からの共感を引き出しやすい表情と音声による感情表現はどのようなものかを検討する。上記の目的に沿って、平成27年度は以下の研究をおこなった。コミュニケーションにおける感情表現は、表情と音声そものの違いや場の状況に応じて、同じセリフでも感情表現が受け取られる際の快/不快が異なる場合がある。先行研究では、快/不快が明確な感情をターゲットとし、社会的文脈が含めずにこうした知見が検討されることが多かった。そこで、今年度は、快/不快両方の高次感情を検討対象とし、社会的文脈を考慮した上で、表情と音声による高次感情情報の相互作用が受け手に及ぼす印象を実験によって検討した。実験には女子大学生20名が参加した。実験では4つのセリフ(それで・すごいね・なんでもない・ありがとう)を快(興味・尊敬・平静・歓喜)/不快(退屈・嫉妬・不安・礼儀)それぞれ4つずつの高次感情で表現した表情と音声を刺激として使用し、さらにこれらが4種の社会的文脈下で呈示された場合の①快/不快の程度、②相手の自分に対する好意度を6件法で評価させた。表情のみ・音声のみを提示した条件の分析から、高次感情の快/不快は顔のみでは判断できないが、声のみでは判断できるという結果が得られた。表情と音声を同時提示した場合には、感情の快/不快が判断可能なことから、高次感情の感情表出には声の影響が非常に大きく、他者に快/不快を伝え、共感性を引き出すには声が重要な役割を担うことが明らかになった。
3: やや遅れている
平成27年度9月の所属先の異動に伴い、年度後半に実施予定だった実験が途中までしか遂行できなかった。
今年度の研究を発展させ、以下のような実験を遂行する予定である。(1)測定指標の追加 今年度は①快/不快の程度、②相手の自分に対する好意度、のみを測定していた。今後の実験では、退屈や嫉妬といったすべての感情選択肢を提示し、それぞれの感情が含まれる程度を評価してもらうことによって、様々な切り口からの分析・検討をおこなう。(2)社会的スキルとの関連性 実験参加者の社会的スキルを同時に測定し、実験結果と各被験者の社会的スキルの関連性を検討する。(3)親密度の影響 今年度は、“友人”という設定で実験を行った。今後は、“初対面状況”を含めるなどして親密度を操作し、親密度が表情と音声に及ぼす影響についても検討する。上記のように、測定指標および社会的文脈のバリエーションを増やすことによって、他者の共感性を引き出しやすい感情表現の特徴をより詳細かつ多面的に検討していく。なお、実験成果については、学会および論文発表によって公表する予定である。
平成27年度9月の所属先の異動に伴い、年度後半に予定していた実験が十分に実施できなかったため、必要機材および謝金の支払いが発生しなかった。また、科研費の移管にも期間を要したため、新たな実験スケジュールを組むことが出来なかった。
平成27年度に得られた研究成果を論文として発表するため、投稿のための経費を計上する予定である。また、平成28年度は複数の実験を実施予定であるため、多くの実験参加者を募る。その際、謝金を支給する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち謝辞記載あり 2件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
電子情報通信学会技術研究報告
巻: 115(149) ページ: 83~88
Proceedings of the International Conference on Auditory-Visual Speech Processing 2015
巻: FAAVSP-2015 ページ: 57~62