われわれのコミュニケーション活動を通じて相互支援的な社会を形成するためには、他者に対する共感性を育むこととともに、他者から共感を得ることも非常に重要である。こうした着想に基づき、平成29年度は、今年度は主に類似性(氏名)、表情、言語と音声の問題に焦点を当てた実験的検討を実施した。
対人コミュニケーションにおける類似性については、姓を取り上げ、姓の類似性が他者への信頼性および協力行動を増加させるのかについて検討した。具体的には、実験参加者に顔と姓の組み合わせを刺激として呈示した上で、最後通告ゲームを実施した。実験参加者は、回答者役を担った。提案者は刺激人物であり、刺激人物のパターンは、参加者と同姓、参加者の友人と同姓、異姓の3パターンであった。また、実験は、顔のみ呈示ブロック、姓のみ呈示ブロック、顔と氏の組み合わせ呈示ブロックの3ブロックから構成されていた。実験の結果、姓という点で類似性が低かったとしても、他者に対する互恵的行動が損なわれる可能性がないことが示唆された。本研究の結果については、日本心理学会第81回(2017年9月)と論文(人間科学、2017年9月)で発表した。
また、今年度は言語および音声に焦点を当てた研究も実施した。具体的には、コミュニケーション相手の怒りの焦点がどこに向けられているかの判断に、言語学的裏づけによって仮定された音韻情報が及ぼす影響を実験によって検討した。実験においては、2種類のアクセントで発話された「何を食べてるの」「何を読んでるの」という音声を収録して刺激として用いた。アクセントは、「何を」に置かれるパターンと、続く動詞部に置かれるパターンの2種類であった。実験の結果、前者は怒りが指示対象(物)に、後者は非指示的対象(行為そのもの)に向けられると判断され、言語学的仮説が指示された。本研究成果は、HCS3月研究会で発表された。
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