本研究課題は、戦後日本における「児童の映画観客」の成立・進展過程や実態の調査・分析を目的としている。映画史や視覚文化史、メディア史などの多角的な視点を踏まえた日本における「児童の映画観客」に関する総合的な研究は、これまでほとんど存在していない。研究代表者はこれまで映画史の草創期から戦前期までを対象として上記の研究を継続的に実施してきた実績がある。それらを踏まえて本研究では、主に占領期から1960年代の高度経済成長期にまで調査範囲を絞り、児童の映画観客の受容動向を広い文化・社会史的観点から明らかにしようと試みた。具体的には国産アニメーションや教育映画、漫画や児童文学などの多くの他ジャンルとの混淆的な関連性も視野に入れて、児童観客の史的・社会的研究を実施した。 そのうち平成26年度では1950年代の状況に焦点を当て、全国各地の関連文献や映像作品を所蔵する機関での調査・試写を行い、いまだ網羅的な収集が進んでいない当該分野の1次資料群の分析収集と言説分析を進めた。その結果、50年代の児童観客の映画受容の実態が当時の文献から言説及び統計データといった複数の側面から多角的に明らかにしえた。 最終年度となった平成27年度は、続く1960年代の児童観客について調査・研究を進めた。そこでは前年度の成果を踏まえて、この時期に児童文化の中で急速に台頭してくる国産テレビアニメーションとの関わりの重要性が明らかとなり、児童の映画観客とともにテレビ視聴者も加えた分析が必要となった。当該年度も引き続き、各機関での関連文献の収集や映像作品の鑑賞を行った。結果として、映画も含めた児童の視覚文化において国産テレビアニメーションの占める位置がきわめて大きなものとなり始めていたことが明らかとなった。 以上のように、事業期間を通じて、50~60年代における日本の児童の映画観客の受容の実態の多角的な検討を行った。
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