モノアミンオキシダーゼ(MAO)による迅速なモノアミンの代謝分解が、脳高次機能発現に必須であり、その破綻は様々な脳神経疾患を誘発する。MAO-A阻害薬は、うつ病などの治療に長年使用されており、PTSDやパニック障害の患者にも有用である。MAO-A欠損マウスでは、各種脳部位のモノアミン量が増加し、情動記憶の亢進、攻撃性の増加などの情動異常が見られ、ヒトにおいてもMAO-A遺伝子変異患者が、Brunner症候群と呼ばれる反社会的行動や攻撃性を示す。逆にMAO-A量が多いと、抑うつ、不安の傾向が高くなる。しかしMAO蛋白質量の制御機構、特に分解機構についてはこれまで報告がなかった。申請者はこれまでに、1)ユビキチンリガーゼRinesがMAO蛋白質のユビキチン化と分解を促進し、マウス脳におけるMAO蛋白質量の調節を介してモノアミン量を制御すること、2)Rines欠損マウスを用いて、MAOA分解機構の破綻が、ストレスに対する、情動および社会性行動とモノアミン反応性の異常を誘導することを報告していた。本研究では、脳高次機能発現における、RinesによるMAO蛋白質の分解とそれに伴うモノアミン動態制御機構を解明するため、若齢~高齢Rines欠損マウスを用いて検討した結果、Rines欠損マウスは、週齢依存的に異なった行動表現型およびモノアミン動態変化を示すことを発見した。MAO-A量の低下で見られる攻撃性が幼児期の虐待などのストレスによって悪化することも知られている。したがって本研究での若齢期のRines欠損マウスでの行動やモノアミン制御機序を解明することは、情動だけでなく行為障害などの発症機序の解明に寄与できると考えられる。さらに、MAO-Aの過剰発現は、神経変性疾患に関与することが報告されているため、本研究は、神経変性疾患の発症機序の解明にも貢献できる可能性がある。
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