研究課題
臓器移植医療においてはドナー臓器不足が世界的な問題である。一つの解決策としてブタの臓器を用いる異種移植が提唱されているが,免疫拒絶という障壁の克服が最重要課題となっている。異種臓器に対し最初に誘導される超急性拒絶は,α1,3ガラクトース(αGal)抗原が引き金となって起きることが知られている。我々はすでに,この抗原を発現しないα1,3ガラクトース転移酵素遺伝子ノックアウト(GalT-KO)ブタを体細胞核移植法によって作出,維持している。本研究では,超急性拒絶誘導のもう一つの要因とされるHanganutzu-Deicher (H-D)抗原を除去した遺伝子ノックアウト(KO)ブタの作出を目的とした。H-D抗原の除去には,Cytidine monophosphate-N-acetylneuramic acid hydroxylase (CMAH)遺伝子のKOが必要とされる。平成26年度の研究内容を以下に要約する。1. CMAH-KO核ドナー細胞の樹立:既存のGalT-KO細胞に対して,CMAH遺伝子を標的とするZFNあるいはTALENを構築し,それらのmRNAのエレクトロポレーションを行った。ZFN処理では,96コロニーのうちヘテロKOが6コロニー(6.3%)得られたが,ホモKO細胞を樹立することは出来なかった。TALEN処理では,166コロニー解析中ヘテロKOが40コロニー(24.1%),ホモKOが5コロニー(3.0%)得られた。2. 核ドナー細胞の正常性・機能確認:得られたCMAH-KO細胞ラインの中から,増殖性に優れ,また正常な形態を維持したものを核ドナー細胞に用いた。染色体検査では,88%~98%が正常染色体数(38本)を維持していた。さらにこれらのKO細胞を用いて作製した体細胞核移植胚は,高率に胚盤胞へと発生した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,GalT-KO細胞に対してCMAH遺伝子をゲノム編集技術を用いてノックアウトすることに成功した。さらに,これらの細胞を用いた体細胞核移植胚はin vitroでの発生効率が高く,クローン個体生産の実現の見通しが立ったため。
平成26年度に樹立したGalT/CMAH-KO細胞を用いて体細胞核移植を実施し,ダブルノックアウトクローンブタの作出を行う。得られた個体については,α1,3-ガラクトース抗原及びH-D抗原が存在しないことを確認する。具体的には,個体のゲノムDNA解析,リンパ球や主要臓器などに対し,抗原糖鎖の消失を免疫染色及びフローサイトメトリーによって確認する。
当該年度に予算を完全消化する必要がなかったため
動物飼育経費として使用する予定である
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