研究課題/領域番号 |
26870634
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
浅井 優一 慶應義塾大学, 理工学部, 講師(非常勤) (80726860)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フィジー / 環境保護 / 談話分析 / 神話 / 儀礼 / ディスコース |
研究実績の概要 |
本研究は、フィジーにある南太平洋大学のIAS(Institute of Applied Science)が推奨する沿岸資源管理活動であるFLMMA(Fiji Locally-Managed Marine Area)が、ヴィティレヴ島に所在するダワサム地域住民によって受容されたことは、「資源管理活動」の実施に留まらず、崩壊する地域の「伝統的秩序」を是正し、地域からの「悪魔祓い」を完遂しようと試みた社会文化的営為であったことを審らかにするものである。 2014年度は、IASが2009年にダワサム地域において住民に対して行ったFLMMAの実施に向けたワークショップの内容に関する調査を進めた。具体的には、IAS所属の研究員が行ったFLMMAの実施を促すワークショップでの談話記録や、そこで使用された資料を言語学的な知見に基づいて分析した。その結果、IASによるFLMMAに関する語りは、語られる出来事(narrated event)が、地域で語り継がれてきた「神話」であるというフレームを喚起せず、自らが体験していない過去の出来事、神話の時空へと「そのまま」移行すること、言い換えれば、発話出来事(speech event)の基点を神話的過去(「語られた世界」)へと転移させ、神話的過去と「今ここ」の話者たちとの一体化を図る語りとなっていることが判明した。すなわち、IASによる語りは、フィジーで一般に観察される神話的語りの形態を取ることによって、環境保護の導入が、フィジーにおける「正しい伝統」として神話化するように作用しうる特徴を有していることが示唆された。以上により、「環境保護」についての語りと、フィジーに特徴的に観察される神話についての語り、この両者に相関関係が存在することが明瞭になったとともに、地域住民側が環境保護を受容した際に前提とした文化的コスモロジーを鮮明にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は、フィジーにある南太平洋大学のIAS所属の研究員が行ったFLMMAの実施を促すワークショップでの談話記録や、そこで使用された資料、ダワサム地域住民によるFLMMA実施について談話の言語学的な知見に基づいた分析、及びその執筆が順調に進行した。また、環境人類学やフィジー研究に関する文献・先行研究の収集を国内外において行い、2年目以降の本調査を行う準備が整った。さらに本年度は、日本国内でInternational Union of Anthropological and Ethnological Sciencesの大会が開催されたため、2年目以降に行うことを予定していた英語での国際学会での研究成果発表を行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、国内外での文献研究を引き続き行いながら、フィジー諸島ダワサム地域での現地調査を本格化させる。現地調査では、2014年度から行ってきたダワサム地域住民による「環境保護」についての語りと、彼ら彼女らが日常的に営む、神話やキリスト教についての語り、この両者の相関関係についてのより精緻な調査・分析を進める。また、ダワサム地域で儀礼用具の焼却する活動を行ったキリスト教団体へのインタビュー調査も随時実施する。さらに、その成果を中間報告の形で文章化し、学術論文か研究ノートなどの形で、しかるべき媒体に発表することを考えている。
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