本研究の目的は戦前中国における武術雑誌の内容分析を通じて、武術とチャイニーズネスの関係を考察することである。最終年度は前年度までの成果を以下の研究活動を通じて学際的・国際的に検討することで、その充実に努めた。 ①前年度までに、本研究の基本概念である「チャイニーズネス」(中国/中国人らしさ)の理解には、近代中国史や文化人類学、民俗学など、広く身体と文化をテーマにした諸領域における知見との比較研究が不可欠であることが痛感された。そこで本年度からは、中華圏の歴史・民俗を専門とする若手研究者3名とともに「チャイニーズネスと身体研究会」を立ち上げ、2回の定例研究会を実施することで、学際的なチャイニーズネス研究に着手した。②2016年度日中社会学会(長崎大学)にて口頭発表を実施。③台湾身体文化学会主催「2016 運動與節慶文化國際学術研討會」にて中国語で口頭発表を実施。④2017年2月22日、23日に台北市・中国文化大学と高雄市・高雄第一科技大学にて上記「チャイニーズネスと身体研究会」メンバーらを中心に『第一回 日台「チャイニーズネスと身体」学術交流会 2017 in 台北・高雄』を実施し、中国語での口頭発表を実施。⑤2017年2月24日に台湾・台南市の奇美博物館(世界と中国の武器を展示)にて、翌日25日には台北市の道生中国兵器博物館(伝統武器の私設博物館)にて、中国の伝統武器に関するフィールドワークを実施。⑥2017年2月26日に台湾・台北市の国家図書館や武術専門書店等にて武術関係資料を入手。 これらの研究から、武術雑誌では1930年頃までは武術を西洋体育に代わりうる中国発祥の「体育」と見なしていたが、以降は武術の社会的・文化的価値を論じ、中国発祥の武器術、中国哲学をベースとした太極拳などに着目することで、武術をチャイニーズネスを体現する「国民文化」としていった過程が明らかとなった。
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