研究課題/領域番号 |
26870641
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
遠矢 和希 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 流動研究員 (20584527)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生命倫理学 / 医事法 / 生殖補助医療技術 / 配偶子 / iPS細胞 / 子の福祉 |
研究実績の概要 |
この研究ではわが国特有の状況を精査しつつ、生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology: ART)における「血縁」に関する倫理的問題を調査・検討し、生命倫理学的・法的提言を行う。提言内容は、医事法(生殖補助医療技術に関する法)と、親族法における対応に分けられる。技術に関する法では、具体的に第三者ドナー配偶子の利用におけるレシピエントの条件や出生児・ドナーの人権と尊厳が議論されうるところ、本年度は出生児の福祉とドナーについてフォーカスし、社会的実験とも言われる医療技術としての問題点について子宮移植を題材にしつつ検討した。 具体的には、提供配偶子・胚によるDC(Donor Conception)で生まれた児の出自を知る権利について論じた(雑誌論文1.)。また成果として、ARTに関する概説(図書1.:分担執筆)、配偶子と胚の提供を伴うARTに絞って記述した概説(図書2.:分担執筆)を発行した。さらに、JSPS-RCN平成27年度特定国派遣研究者としてノルウェー国立ベルゲン大学での研究の機会を得たため、ノルウェーにおけるDCの事情と隣国スウェーデンでの世界初の子宮移植について研究倫理面での問題点を含め考察した。 ARTは基礎研究から人間への応用が早い分野であることが指摘されており、歴史的に医療ではなく研究としての審査や追跡調査が必須であったともと考えられる。DC児に関しては親の不妊のスティグマなどによりその後の追跡が非常に難しいことが各種調査で示されているが、児に心理的負担をかけない出自の告知に資する夫婦関係と家族のバックアップは養子縁組同様に必要である。 よって、本研究において重点的に文献調査・検討を行うトピックのうち、本年度は第三者配偶子ドナーが関わるARTにおける児の福祉と研究としての側面についての倫理的問題を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は第三者配偶子ドナーが関わるARTにおける児の福祉と研究としての側面についての倫理的問題を検討した。しかしながら研究論文等の成果としては、特に北欧諸国のARTに関する法整備の違いとスウェーデンの子宮移植について、年度内にはまとめることができなかった。よって上記の区分とさせていただいた。 研究代表者は本研究とは別に、JSPS-RCN平成27年度特定国派遣研究者としてノルウェー国立ベルゲン大学での研究の機会を得たため、別の研究課題「胎盤等バイオバンクに関する倫理的問題とノルウェー・北欧の法政策の検討」と並行して研究活動を行った。本研究との関連性に関して、リプロダクションに関わる課題であるということ、児の福祉に関わるということ、研究倫理の視点が参考になるということが挙げられる。本研究における生まれた児の福祉の問題は、翻って「親の同意で研究参加が決められ追跡調査の可能性がある」バイオバンクに参加する新生児の問題と共通する、「インフォームド・コンセント(アセント)の不在」がある。 iPS細胞由来の生殖細胞により臨床研究を行う場合は、より一層研究倫理の視点が要求されるものと考えられ、誰が「被験者」となるのか、また長期追跡調査の方法など、バイオバンクにおける胎盤・臍帯血の採取と児の遺伝情報を研究対象にすることに関する問題と同様の問題点が想定される。よって、この研究課題も今後の本研究に大きく寄与するものと考えられる。 また研究代表者は研究協力者として、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班」における「HIV医療の倫理的課題に関する研究」に引き続き取り組んでいる。がん患者等疾病を持つ挙児希望者について、配偶子凍結技術を適用することが推進され始めているが、同研究課題はART利用者の条件や制限に関する考察につながるものと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、その大部分を文献調査に負うところが大きい。前述の通り、本年度はドナー由来の配偶子により生まれた児をめぐる倫理的問題について重点的に文献調査・検討を行った。 一方で、配偶子凍結技術の利用における倫理的課題と、将来におけるiPS 細胞をはじめとする体性幹細胞由来配偶子作成とその利用に関する倫理的課題については積み残している部分がある。 iPS 細胞由来のヒト胚と通常ヒト胚の道徳的地位をどう規定するかという問題については、研究倫理の視点から、そもそも実験的な技術であった生殖補助医療技術における「当事者」「被験者」とは誰なのかという課題が見えてきている。これは、本年度のノルウェー滞在とバイオバンクに関する研究課題により副次的に得られた観点であるが、過去、ヒトへの応用が『滑りやすい坂理論』的に行われてきた生殖補助技術において、生まれた児は「被験者」「臨床研究参加者」としての立場を取り得てきたのか、今さらながら考慮される必要がある。iPS細胞由来のヒト胚を生殖に利用する可能性があるならば、それは「実験的医療」にほかならず、再び同じ歴史を繰り返すことは避けなければならない。日本では体外受精や顕微授精(IVF、ICSI)の導入後も生まれた児に対して国としての追跡調査などが行われてこなかったが、児の健康と福祉における実態把握の重要性に加え、生まれた時から長期的に「研究対象」とされることの倫理的問題も考えられる。児の健康・福祉に関して追跡調査を行えば足りるという問題ではなく、家族を含めた「研究参加者」の視点が必要である。 よって、(第三者、凍結、iPS 細胞由来)配偶子が関わる生殖補助医療の倫理的問題点を包括的に明らかにし、生殖補助医療に関する法の整備へ向けての考察を行う上で、研究倫理の視点も今後の当研究の推進に繋がるとみられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者がJSPS-RCN平成27年度特定国派遣研究者としてノルウェー国立ベルゲン大学での研究の機会を得たため、ノルウェー滞在中は本研究に関する旅費や物品購入の申請が、現地と日本の間の書類郵送の困難性から遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度支出分を計上し、残額は翌年度助成金と合わせて物品購入等に充てる。
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備考 |
H24~H26年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班」における「HIV 医療の倫理的課題に関する研究」(研究協力)
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