研究課題/領域番号 |
26870641
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
遠矢 和希 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究開発基盤センター, 流動研究員 (20584527)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生命倫理学 / 医事法 / 生殖補助医療技術 / 研究倫理 / iPS細胞 / 子の福祉 |
研究実績の概要 |
この研究では生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology: ART)における「血縁」に関する倫理的問題を調査・検討し、生命倫理学的・法的提言を行う。提言内容は、技術に関する法と、親族法における対応に分けられる。技術に関する法では、具体的にiPS細胞由来の配偶子を用いる場合における「臨床研究の倫理」などが議論されうるところ、本年度は既に臨床利用されている技術開発に関する問題点についてフォーカスし、社会的実験とも言われる医療技術としての問題点について歴史的な側面から検討した。 具体的には、2000年代以降の、ART(体外受精、顕微授精、胚培養・凍結等)で生まれた児に関するゲノムインプリンティング異常等の医学的疑いに端を発する追跡調査の不備に関する問題を、ARTの臨床導入における歴史的経緯を振り返りつつ、自由診療として行われているARTを臨床研究の枠組みでどう考えるべきか、生まれた時から「臨床研究」用にデータを収集することに関する倫理的問題(子の福祉に関する危惧)を考察した(学会発表1.)。また「生まれた時から」追跡研究に参画する児の倫理的問題に関連して、研究用バイオバンクにおける臍帯血・胎盤等の集積についての親の同意やアセント、子どもの成長後のコンセントなどの研究倫理問題について論じた(学会発表2.)。また、セクシュアル・マイノリティのART利用についての概説(学会発表3.)のため、世界と日本の状況について改めてアップデートを行った。 ARTは基礎研究から人間への応用が早い分野であることが指摘されており、医療ではなく研究としての審査や追跡調査が必須であると考えられる。再生医療と同様に、ARTも「先端技術」としての法的規制の可能性があるが、歴史的・制度的にも、世代を超えた影響を検証する体制が整っていないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は既に臨床利用されている技術の追跡研究に関する問題点についてフォーカスし、社会的実験とも言われる医療技術としての問題点について歴史的な側面から検討した。しかしながら学会発表には至ったものの、研究論文等の成果としてはまとめることができなかった。よって上記の区分とさせていただいた。 研究代表者は本務として国立研究開発法人国立循環器病研究センターにおいて臨床・研究倫理に関するコンサルテーションや教育活動、各法規・指針に関する対応業務を行っている。今年度は個人情報保護法の改正に伴い、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(医学系指針)や「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(ゲノム指針)の改訂に関する教育・研修活動にエフォートを割くことになり、本研究や他の研究活動についても十分な対応をすることができなかった。とは言え、本務も本研究との関連性があり、特に臨床研究における個人情報保護法と指針に関する知見を得られたことは大きな収穫であった。つまり、iPS細胞由来の生殖細胞により臨床研究を行う場合は、より一層研究倫理の視点が要求されるものと考えられ、誰が「被験者」となるのか、また長期追跡調査の方法などが具体的問題として想定される。よって、本務における指針や個人情報保護法の知見も今後の本研究に大きく寄与するものと考えられる。 また研究代表者は研究協力者として、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班」(研究代表者・白阪琢磨)における「HIV医療の倫理的課題に関する研究」(研究分担者・大北全俊)に引き続き取り組んでいる。薬剤等の進歩により、HIV陽性者のリプロダクションへの医学的対応も急速に変化していることが確認され、同研究課題はART利用者の条件や制限に関する考察にも資するものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、その大部分を文献調査に負うところが大きい。前述の通り、本年度は既に臨床利用されている技術の追跡研究に関する問題点について重点的に文献調査・検討を行った。 一方で、配偶子凍結技術の倫理的課題については積み残している部分がある。また、親族法に関わる部分である血縁に関する議論も研究期間を通して十分とは言えない。 日本では近年、インターネット上の遺伝子検査キットを用いることで、ドナーによって出生した児が自らの血縁に関して簡便に確認できるようになりつつある状況がある。DTC(Direct To Consumer)遺伝子検査の論点においては遺伝性疾患や体質、科学的根拠のない能力に関する診断などが問題となり、親子鑑定についてはあまり取り上げられてこなかった。また、法学分野においては長く訴訟上の鑑定に関する問題や同意能力についての議論はされてきたが、DNA鑑定の一般利用拡大に伴って訴訟外の鑑定をどう取り扱うかという問題は今後俎上に載るものと考えられる。このように「血縁」を簡単に(低価格で、調査対象(父母)に知られずに)確認できる状況下で、親子関係の認定を「推定」「みなし」で行い続けることが果たして可能なのか、妥当なのか、という論点が立ち現れる可能性がある。血縁をとるか生活実態を重視するかについて、裁判所の判断はケースにより割れている。血縁主義を推し進め、DNA鑑定の結果が生活実態より優先されれば、「現代的な藁の上からの養子」としての第三者が関わるARTではまさに血縁を偽装したしわ寄せが来ることになる。親子法的には提供配偶子等で生まれた子の法的親子関係の安定を図る法整備の必要性、また医事法的には早期のケアを含む告知の必要性、DNA鑑定の利用拡大に伴って増していると考えられる。 このような親子鑑定についての議論を現在国際誌に投稿中であり、今後の当研究の推進に繋がるとみられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者がH27年度(2015年度)JSPS-RCN特定国派遣研究者として1年間ノルウェー国立ベルゲン大学に派遣され、現地と日本の間の書類輸送の困難性から旅費や物品購入の申請がほとんどできず、残額がほぼ1年分繰り越されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
補助事業期間延長承認申請・承認を受けたため、本年度支出分を計上し、次年度に残額を物品購入等に使用する。
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