この研究では生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology: ART)における「血縁」に関する倫理的・法的問題を調査・検討した。検討内容は、技術に関する法と、親族法における対応に分けられる。親族法における対応では、親子関係の法的認定が「遺伝学的血縁」によるか「生活実態」によるかという問題があるところ、本年度は科学的親子鑑定にフォーカスし、血縁と技術に関する問題点について検討した。 日本では近年、インターネット上の遺伝子検査キットを用いることで、ドナーによって出生した児が自らの血縁に関して簡便に確認できる状況がある。Direct To Consumer遺伝子検査の論点においては遺伝性疾患や体質、科学的根拠のない能力に関する診断などが問題となり、親子鑑定についてはあまり取り上げられてこなかった。また、法学分野においては訴訟上の鑑定に関する問題や同意能力についての議論はされてきたが、「血縁」を簡単に(低価格で、調査対象(父母)に知られずに)確認できる状況下で、訴訟外の鑑定をどう取り扱うか、親子関係の認定を「推定」「みなし」で行い続けることが果たして妥当なのか、という論点が立ち現れる可能性がある。血縁と生活実態のどちらを重視するかについて、裁判所の判断は事例により割れている。提供配偶子等で生まれた子の法的親子関係の安定を図る法整備の必要性、また早期のケアを含む告知の必要性が、DNA鑑定の利用拡大に伴って増していると指摘した(雑誌論文1)。 iPS細胞由来の生殖細胞により臨床研究を行う場合は、医療ではなく研究としての審査や追跡調査が必須であると考えられる。誰が「被験者」なのか、また長期追跡調査の方法などが具体的問題として想定される。このような研究倫理の視点についても一定の検討成果を上げることができた(図書1)。
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