研究課題/領域番号 |
26870644
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小高 敬寛 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (70350379)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 考古学 / 先史学 / メソポタミア / 国際情報交換 / イラク・クルディスタン |
研究実績の概要 |
当初の研究実施計画において平成28年度は研究の最終年度に当たるため、スレイマニヤ文化財局での調査対象をテル・ベグム遺跡出土資料に絞り、採集遺物の分析による文化編年の構築、考古学的アセンブリッジの通時的な地域間比較、地域間交流の通時的評価といった、研究成果のとりまとめに主眼を向ける予定であった。しかし、26年度および27年度に予定していた資料調査の延期があったため、27年度までの終了を見込んでいたシャフリゾール地域・先史遺跡における表面採集資料の調査も、28年度に実施する必要が生じた。 年度の前半は、27年度から次善の策として進めてきた東京大学総合研究博物館所蔵の近隣遺跡先史土器資料の整理を継続するとともに、既存のテル・ベグム遺跡出土資料調査記録および放射性炭素年代測定に基づく編年研究を行なった。その結果、西アジアでも類例の少ない、前6千年紀半ばに確実に年代づけられる考古資料を特定できただけでなく、北メソポタミア地方やイラン高原とは異なる、シャフリゾール地域特有の地域色を明らかにすることができた。この成果は、10月にスレイマニヤ大学で開催された専門家会議にて報告した。 年度の後半は、幸いにして用務先への渡航再開の目途が立ったため、テル・ベグム遺跡出土資料、シャフリゾール地域・先史遺跡表面採集資料の双方につき、10月と2月の二度に渡って調査を実施した。これにより、研究計画遅延の圧縮に成功し、遅ればせながらも当初の計画通り、前7千年紀後葉から約3千年間の文化編年構築に要する基礎的な情報を収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画の遂行には、イラク・クルディスタン地域スレイマニヤ文化財局での資料調査が必須である。しかし、平成26年8月に始まったISILに対する有志国の軍事作戦を受け、現地の治安情勢を見極めるため、26年度および27年度に予定していた調査は延期せざるを得なかった。この状況を受けた次善の策として、これまで国内に収蔵されている関連資料の調査を介した補足的な研究を行なってきたが、28年度にようやく渡航調査を再開することできた。したがって、現在は当初の計画に沿った研究を進めているが、2年間にわたる調査延期で生じた進捗の遅れを完全に取り戻すには至らず、1年間の研究期間延長をお願いした次第である。
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今後の研究の推進方策 |
幸いなことに、平成28年度にスレイマニヤ文化財局での資料調査を再開できたため、29年度は引き続きテル・ベグム遺跡出土資料、およびシャフリゾール地域・先史遺跡表面採集資料の調査を実施し、調査記録の補完と充実を図る。そして、研究の最終年度として、これらの調査記録に基づく採集遺物の分析を行ない、文化編年の構築、考古学的アセンブリッジの通時的な地域間比較、地域間交流の通時的評価といった、研究目的に応じた成果へとつなげる。 研究成果は7月の日本西アジア考古学会大会、10月の日本オリエント学会大会などで報告するとともに、英文査読誌への投稿を予定している。こうした成果に基づき、遺跡の地形測量や発掘調査を通じた更なる研究の展開に向け、計画の構想と準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度および27年度において、予定していたスレイマニヤ文化財局での資料調査が延期され、また、その成果物を含めて行う予定であった調査記録の整理作業についても、作業量が大幅に減少した。その結果、旅費・人件費の多くが未使用額として28年度に残されていた。28年度に使用した額は、本研究に係るおおよそ1年分の必要経費と合致したため、前年度の残額がそのまま今年度の残額となり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画ではすでに実施しているはずであった、スレイマニヤ文化財局での資料調査に係る旅費として使用する。また、研究の最終年度として、平成28年度から蓄積してきた調査記録の整理作業を早急に進める必要があるため、それに従事する研究補助者を雇用する人件費として使用する。
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