本研究の目的は、子ども・子育て期の親が復興の主体となることを可能とする支援システムがどのように構築されうるのかを、支援者の専門性の観点から実証的に明らかにすることである。阪神・淡路、中越、東日本の3つの大震災の被災地域における子ども・子育て支援者が直面した不安・葛藤すなわち「ゆらぎ」に着目し、その後生じる支援者の自己変容と環境への働きかけに至る過程をシステム構築の発芽とみなし「ゆらぎ」が新しい支援システムを生み出していく過程を可視化した。 その結果、①子どもの回復と成長のありよう、②支援のありよう、③支援者のゆらぎと実践の省察サイクル、そして成長、④支援行為から支援システムへの4つの点が浮き彫りになった。ここでは特に④について述べる。阪神・淡路大震災の教育復興担当教員は、当初教職員定数算定の特例措置によって被災地域の学校運営や教育上の指導が円滑に行われるようにし、震災後の児童生徒の心の健康に関する相談に対応するための追加加配であった。教員に心のケアの専門性はなかったが、子どもに寄り添う支援を積み重ねることでソーシャルワークの視点を有した支援システムへと転化していった。中越大震災後の長岡市では、ジェンダー学習の積み重ねにより男女双方の役割が災害によって強化されることが市民の間で意識化された。これを踏まえて防災分野における施策の推進を盛り込んだ長岡市男女共同参画社会基本条例が制定された。東日本大震災後の被災地域では、これまでNGO・NPOが担ってきた支援を制度として地域に根差すものにしていく時期が到来している。支援システムの構築に向けては支援者が支援行為を通じて得た経験値を言語化し、実践知としてひろく共有し地元へ返していくことが求められている。以上、子どもや子育て期の親を単なる保護の対象としてとらえる従来の支援ではなく、災害復興の主体として支えていくための道筋を明らかにした。
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