研究課題/領域番号 |
26870663
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
吉田 曉弘 神奈川大学, 工学部, 助教 (30514434)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 水素吸蔵材料 / 金属水素化物 / 共役系高分子 / 水素化リチウム |
研究実績の概要 |
申請者らは、本研究課題実施の初年度(2014年度)の研究において、LiH/ポリアセチレン複合材料がLiH単独時の800℃以上という温度に比べてはるかに低温の300℃で水素を吸放出することを見い出した。さらに、熱的、化学的安定性が高い芳香環が連結されたポリパラフェニレン(以下PPP)を使用した場合に、アセチレン系高分子を使用した時に比べて良好な水素吸放出サイクル耐性を示すことを明らかとした。この結果に基づき、今年度(2015年度)はPPPよりも高い水素吸放出促進効果を持つフェニレン系の共役系高分子の探索を行った。フェニレン鎖が3次元網目状に連結されたPP-CMP (Polyphenylene-based conjugated microporous polymerの略)は、1000 m2/g以上もの極めて高い表面積を有することから、LiHと複合化した際に大きな気固界面が形成され、高い水素吸放出特性を示すものと有望視された。従来、高分子材料とLiHの複合化においては遊星式ボールミルを使用していたが、このような強力な粉砕法ではなく、粉末の混合における常法であるメノウ乳鉢による粉砕混合により複合体を調製し、水素吸放出特性の比較を行った。その結果、LiHとPP-CMPの複合体(以下LiH-CMP)は、300℃のHe気流中においてLiHとPPPの複合体(以下LiH-PPP)よりも1.3倍の水素放出量を示した。5サイクルの水素吸放出サイクル実験における水素放出量も同様に増大した。PP-CMPは1000 m2/gもの高い表面積を持つことから広大な気固界面が形成され、また、メノウ乳鉢を使用した簡易な混合法であってもLiHとの良好な接触を確保することができ、これが水素放出特性の向上につながったものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度の研究結果により、LiHと共役系高分子との複合化による水素放出低温化機構をおおよそ明らかとすることに至った。さらに、その後の研究で、当初アセチレン系の共役系高分子において見いだされた水素放出促進作用を、熱的化学的安定性の高いフェニレン系の高分子も発現することを明らかとした。この発見は、著しく高い表面積を持ったフェニレン系共役系高分子PP-CMPの適用による水素吸放出特性の性能向上につながった。本研究では、ポリマー構造や金属水素化物の種類を変えることで、水素放出温度や水素吸蔵速度の支配因子を検討することを一つの目標として掲げており、ポリマー側の材料探索は体系的かつ成功裏に進んでいると言える。 一方で、金属水素化物側の材料探索は、限定的な範囲にとどまっているのが現状である。重量当たりの水素吸蔵密度の観点からは、リチウム、マグネシウム、アルミニウムといった軽元素の水素化物の適用が望まれているが、このうち、LiHとMgH2については共役系高分子との複合体を調製し、その水素吸放出特性の検討を行うことができたが、AlH3やその他の三成分系の水素化物等の材料との複合化は行えていないのが現状である。また、MgH2と共役系高分子の複合体においては、触媒量の高分子の添加で水素放出特性が大幅に改善されることを見い出してはいるが、その機構等についての詳細な検討は行えてはいない。今後は、これらの点について重点的に検討を行っていく。
|
今後の研究の推進方策 |
2015年度までは金属水素化物として主にLiHを使用した検討を重ねてきたが、2016年度からはマグネシウム、アルミニウムの水素化物と共役系高分子の複合体の調製とそれらの水素吸放出特性の検討を行う。特に、MgH2と共役系高分子を複合化した際には、触媒量の共役系高分子の存在により水素吸放出温度・速度が大幅に増大することが既に観測されているため、この触媒作用の発現機構について検討を行う。 さらに、共役系高分子と金属水素化物の複合化は、従来、遊星式ボールミリングで行ってきたが、このような機械的な微細化手法だけではなく、共役系高分子上に含浸した金属錯体を水素化分解して金属水素化物とする溶液中での合成法の適用を検討する。2015年度の検討より、高表面積の共役系高分子の使用が水素放出特性の改善に有効であることが明らかとなったが、これは共役系高分子と金属水素化物の固-固界面の増大、ならびに固体材料と水素との気-固界面の増大による効果と考えられる。溶液中での複合化により、ナノスケールの微細な金属水素化物粒子を高表面積の共役系高分子担体上に保持することができれば、今までになく性能の高い水素吸蔵材料になるものと期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬、ガス等の使用量が当初の予定よりもわずかに少なかったため、未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
新規の試薬購入等に充当する予定である。
|