申請者らは、本研究によりLiHと共役系炭化水素高分子の複合材料がLiH単独時の800℃以上に比べてはるかに低温の300℃で水素を吸放出することを見い出した。特に、熱的、化学的安定性が高いポリフェニレン系の構造を持つポリマーを使用した場合に、良好な水素吸放出サイクル耐性を示すことを明らかとした。今年度は、さらに水素放出温度の低温化を実現すべく、LiHと共役系高分子材料の複合化法の検討を行った。本複合材料での水素放出反応は、LiHと共役系高分子材料の固-固界面で反応が進行することから、これら二種の材料の接触性を改善することができれば、水素吸放出をさらに促進することができるものと推測された。具体的には、昨年度までの実験では遊星ボールミルによるLiHと共役系高分子を粉砕混合により得た複合材料を使用していたが、この方法ではLiHの微細化に限界があったことから(結晶子径40 nm程度)、今年度は液相含浸法によるLiHと共役系高分子の複合体の調製を行い、その水素吸放出特性の検討を行った。溶解性に乏しく液相含浸の困難なLiHの代わりに、低級アルカンに溶解し、かつH2気流中での熱分解によりLiHを与えるアルキルリチウムを前駆体としてLiHの液相含浸を試みたところ、シェラーの式により結晶子径が10~15 nm程度の微細なLiHナノ粒子を共役系高分子上に生成させることに成功した。得られた試料の水素放出特性をHe気流中での昇温脱離測定により評価したところ、共役系高分子としてポリパラフェニレンを使用した場合に、ミリング法に比べて液相含浸法で合成した試料では水素放出温度が30℃低温化することが見い出された。以上のことから、液相含浸によるLiHと共役系高分子の複合化により、機械的なミリング法よりも微細なLiH種を高分子上に生成させられること、さらにそれに伴う水素放出温度の低温化が可能となることが明らかとなった。
|